睡眠Vol. 116分で読む

夜の光、条件を見直す。

ブルーライトカットメガネは10〜25%しか遮断できない。眠りへの光の影響は、波長、明るさ、浴びる時刻と長さで変わる。

The 100-lux borderline.
SLEEP — THE 100-LUX BORDERLINE

夜の光、
100ルクスの境界線。

スマホの青い光が眠りを壊す。そう言われて、カットメガネを買った人は多い。しかし17のRCTを束ねたコクランレビューは、その効果に有意差を見いだせなかった。真犯人は波長ではなく、明るさと時刻だった。

白熱灯のフィラメント、夜を照らす糸。Plate II

メガネでは防げない理由

メガネの遮断率10〜25%では、網膜に届く光量を変えられない。

Singh 2023 Cochrane Database Syst Rev は、ブルーライトカットレンズと通常レンズを比較した17のRCT、619名を解析した。眼精疲労への効果は低確実性で明確ではなく、睡眠の質は6試験で結果が混在し、確実性は非常に低かった。黄斑の健康を評価した試験はなく、効果を判断できない。メガネの青色光遮断率は10〜25%程度。その程度では、網膜に届く光量の総和を変える力が足りない。

レンズの縁、薄い黄色。Plate III

100ルクスの閾値

普通の室内照明は、すでにメラトニン抑制の飽和域にある。

Zeitzer 2000 J Physiol は、光の強度とメラトニン抑制の関係を精密に測定した。半最大抑制に達する照度は106ルクス。200ルクスで抑制は飽和する。普通のリビングは150〜300ルクス。これは夜間に長時間照射した条件の推定値であり、日常の照明が全員のメラトニンを最大限に抑えるという意味ではない。青い光だけを削っても、総照度が変わらなければ効果は限定的だ。

106ルクス
半最大メラトニン抑制に達する照度
ESSAY — In Praise of Shadows1933
谷崎潤一郎『陰翳礼讃』 · Jun'ichirō Tanizaki, In Praise of Shadows (In'ei Raisan)
美は物体にあるのではなく、物体と物体との作り出す陰翳の綾、明暗にあると谷崎は説いた。
Editorial paraphrase / 編集部による要約

谷崎は、明るすぎる照明が陰翳の機微を奪うと書いた。日本の座敷や漆器の美は、薄暗がりを前提に設計されている、と。Zeitzerの106ルクスの閾値は、この直観に数字を与える。夜に光を落とすのは、眠りのためであると同時に、暗がりが持つ豊かさを取り戻すことでもある。

窓辺、夜の街灯が滲む。Plate IV

子どもの網膜は大人の2倍敏感

同じリビングの灯りでも、子どもの体内時計への影響は成人より大きい。

Higuchi 2014 JCEM は、同一の光条件下で平均9.2歳の小学生と成人のメラトニン抑制率を比較した。580ルクスの実験で分析に含まれた子ども5人の抑制率は88.2%、成人6人は46.3%だった。ほぼ2倍の差があった。水晶体の透明度が高い子どもの眼は、短波長光をより多く通す。同じリビングの灯りでも、子どもの体内時計への影響は成人より大きい。就寝前1時間の減光は、子どもにこそ意味がある。

左: テーブルランプの円錐光。右: 調光スイッチの目盛り。Plates VI–VII

タブレットと入眠潜時

顔から30cmのタブレットは、天井灯より網膜への到達光量が大きい。

Chang 2015 PNAS は、就寝前4時間のiPad使用が睡眠に与える影響を測定した。メラトニン分泌は55%抑制され、DLMO(dim light melatonin onset)は1.5時間遅延した。入眠潜時は25.6分に延びた。紙の本を読んだ群は15.8分。約10分の差がある。光源との距離も重要だ。タブレットは顔から30cmで使う。天井灯より網膜への到達光量が大きい。

実用ガイド:「光を落とす」を習慣に

就寝1〜2時間前から室内照度を50ルクス以下に落とす。間接照明や暖色LED(2700K以下)に切り替える。スマホやタブレットはナイトモードと画面輝度の両方を下げる。子どもがいる家庭では、寝室を最初に暗くする。メガネより、スイッチを触る方が確実だ。

アンバーの灯り、眠りへの入口。Plate VIII
CODA:編集後記

青い光を削るより、明るさそのものを落とすこと。106ルクスの境界線は、普通のリビングのすぐ内側にある。今夜から触るのは、メガネではなくスイッチのほう。とりわけ子どものいる家では、寝室を最初に暗くする。

編集部

WordsAMPL Editorial

EditorKen Okamoto, MD