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ラマダンとロックダウンの二重ストレスがアスリートに与える影響:睡眠とトレーニングの質を守るために

元になった研究Frontiers in Nutrition・2022年

ラマダンの断食期間中に、COVID-19ロックダウンという未曾有の事態が重なったことで、ムスリムアスリートの睡眠やトレーニング行動にどのような変化が生じたのか。2022年に発表された国際的な研究を中心に、最新の知見と具体的な対策を解説します。ビジネスパーソンにも活かせる応用アイデアをあわせてご紹介します。

はじめに

筆者は医療の専門知識とアスリート経験を活かし、パフォーマンスを最大化する「ビジネスアスリート」を支援する情報発信を行っています。今回取り上げるのは、二重のストレスとも言われる「ラマダン期間中の断食」と「ロックダウン」が重なった2020年〜2021年に、ムスリムアスリートがどのように睡眠やトレーニング習慣を変化させたかを調査した研究です。

  • 研究の価値: 普段のラマダン研究と異なり、ロックダウンという制約が加わることで日常リズムがさらに乱れやすい状況となり、より顕著な睡眠・トレーニングへの影響が見られる可能性がある。

論文の基本情報

名のムスリムアスリートを対象に、ラマダンとロックダウンが同時に睡眠やトレーニングに与える影響を横断的に調査したものです。

研究の背景と目的

1 ラマダンとアスリートの関係

ラマダンでは、日の出から日没まで飲食が制限されます。アスリートにとっては栄養摂取や水分補給のタイミングが制約される上、睡眠リズムが夜型にずれやすくなるため、パフォーマンスやリカバリーに影響が出ることが知られています。

2 ロックダウンとの組み合わせによるリズムの乱れ

一方、2020年〜2021年にかけてのロックダウン下では、外出制限やトレーニング施設の利用制限、対人コミュニケーション機会の減少などが発生しました。これがストレスや運動量の減少を招き、睡眠障害や身体活動量の低下を引き起こした可能性があります。本研究の目的は、この二重ストレス環境下で「ラマダン遵守が睡眠やトレーニング行動にどのような影響を与えたか」を検証し、適切な対策を提案することです。

研究方法

  • 対象者: 44か国のムスリムアスリート1,681名(性別・競技レベルともに多様。エリート競技者から一般的なフィットネス愛好者まで含む)
  • 調査内容:Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI): 睡眠の質を測定
  • Insomnia Severity Index(ISI): 不眠症の重症度を評価
  • トレーニング・食事に関するアンケート: 1日・1週間あたりのトレーニング時間や栄養摂取パターン
  • 期間: 2020年7月〜9月(ラマダンとロックダウンが重なった期間を回顧的に評価)
  • 手法: オンライン調査(自己申告形式の横断研究)本調査は回顧的データが中心ですが、広域にわたる対象国をカバーすることで、多様な文化的・環境的要因を取り込みつつラマダンの影響を評価しています。

研究結果

調査の主要な結果は以下の通りです(数値は平均±標準偏差)。

  • 睡眠の質:ムスリムアスリートはPSQIスコアが6.2±3.1と、非ムスリムアスリート(5.6±3.1)よりも高値(p
  • 不眠症の重症度:ムスリムアスリートのISIスコアは8.6±6.6と、非ムスリムアスリート(6.1±6.5)よりも統計的に有意に高かった(p
  • トレーニング量の減少:ラマダン中の断食に加え、ロックダウンで屋内外の運動機会が制限されたことにより、週あたりのトレーニング時間が顕著に減少。
  • 特に有酸素系(ランニング、サイクリング)とチームスポーツ種目での練習量が大きく落ち込んだ。

筆者の考察:“ビジネスアスリート”への応用

多くの社会人が、在宅勤務や自粛要請などにより行動制限がかかった経験をしています。そこで以下の戦略が参考になります。

1 一定の睡眠リズムを確保

  • 就寝時間と起床時間を可能な範囲で固定。
  • 光のコントロール(朝はしっかり太陽光を浴びる、夜は照明を落とす)を意識する。

2 昼寝は短時間で取り入れる

  • 昼寝は20〜30分までを目安にし、長引く場合は夕方以降に深い眠りが入りにくくなるため注意。

3 断食時のトレーニング計画

  • 運動強度が高いトレーニングは、日没後の食事・水分摂取が可能なタイミングで行う。

研究の限界(リミテーション)

  • 回顧的・主観的データオンラインアンケートによる自己申告データが中心のため、バイアスや誤差が含まれる可能性。
  • 記憶バイアス調査期間(7〜9月)と実際の断食期間(ラマダン)には時間差があり、回答者の記憶が曖昧になっている恐れ。

今後の研究および応用の展望

  • 長期的な追跡調査: ロックダウン解除後の身体機能・メンタルヘルスの回復プロセスを検証。
  • 宗教行事間の比較: 他宗教での断食や祭事を比較し、一般化可能な結果を得る。

まとめ

ラマダン遵守とロックダウンが同時に重なることで、アスリートの睡眠の質やトレーニング行動が低下することが示されました。日常生活でも、睡眠リズムの維持や適切なトレーニング計画が重要であることがわかります。

注意書き(免責事項)

本記事は医学的・学術的な情報提供を目的とし、個別の医療アドバイスを意図したものではありません。

この記事を書いた人

岡本 賢

医師。愛育病院で小児科の臨床に立つかたわら、日経メディカルで連載。CrossFit Level 1 Trainer の資格を持ち、HYROX にも出場する。Business Athlete Club では、運動・睡眠・栄養の研究を、働く人の毎日の選択に訳して届けている。

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