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第7回:メンタル面から見る慢性痛:痛みとストレスの悪循環を断つー

■ 1. 痛みとストレスは表裏一体

(1) 慢性痛とストレスの相互作用

  • ストレスホルモンの過剰分泌慢性的なストレスや不安状態が続くと、コルチゾールやアドレナリンなどのストレスホルモン分泌が高まり、交感神経活動が持続します。これによって筋肉は弛緩しにくく血行も滞りやすくなるため、痛みを感じやすい身体状態を作り出します。
  • ネガティブ感情の増幅痛みは単なる感覚的刺激だけでなく、情動や認知とも密接に連動します。

長引く痛みによって鬱々とした気分や「自分はもう治らないのではないか」という絶望感を抱くと、痛みの主観的強度がさらに強まる悪循環が起こります。

(2) 痛みの心理的要因:恐怖回避モデル

  • 恐怖回避理論(Fear-Avoidance Model)慢性腰痛などでよく取り上げられる理論です。「痛み=危険信号」と強く認知することで、体を動かすこと自体を避け(回避行動)、結果的に筋力低下や社会参加の制限が進む。これがストレスを増大させ、さらに痛みを悪化させるという悪循環が形成されます。
  • 痛みに対する“恐怖認知”本来であれば安全な範囲の動作でも、痛みを恐れて過剰に安静にしてしまう。この場合、リハビリなどの運動療法も実施しづらくなり、慢性化リスクが高くなるとされています。

■ 2. ストレスや心理状態が生む「中枢感作」の強化

(1) 中枢感作(Central Sensitization)のメカニズム

  • 脳や脊髄の痛覚過敏化ストレスや不安が持続すると、脳の扁桃体や視床下部など感情・自律神経を司る領域が活性化。これが脊髄後角の神経細胞を過敏化させ、わずかな刺激でも痛みを強く感じるようになることがあります。
  • 慢性炎症との関連ストレスによって免疫・炎症反応が微妙に亢進し、サイトカイン(IL-6、TNF-αなど)の産生が増える場合がある。こうした炎症メディエーターも痛覚過敏を後押しする可能性が指摘されています。

(2) 睡眠障害を介した増悪

  • 睡眠の質低下不安やストレスが入眠困難・中途覚醒を誘発し、結果的に疲労感や痛みの閾値をさらに下げる。
  • ホルモンバランスの乱れ成長ホルモンやメラトニン分泌が不十分になると、筋肉や組織の修復が滞り、痛みが慢性化しやすい身体状態へと移行しやすい。

■ 3. メンタルアプローチの重要性:心理療法・リラクゼーション

(1) 認知行動療法(CBT)

  • 思考と行動を変える治療法「痛み=絶対的な恐怖」という認知の歪みを修正し、痛みによる活動制限を少しずつ緩和していく。
  • 具体的な手法認知再構成: 「痛みがあるから動けない」という思考を、「痛みがあっても安全にできる動作がある」に切り替える。
  • 段階的暴露: 動作を細分化し、比較的痛みの少ない活動から徐々に運動量を増やしていく。
  • セルフモニタリング: 痛みや気分の変動を記録し、悪化要因や改善要因を可視化する。

(2) マインドフルネス・瞑想

  • 現状をありのままに受け止めるマインドフルネスとは、「今の瞬間に意識を向け、評価や判断を加えずに観察する」手法。呼吸や身体感覚への集中を通じて、痛みへの過剰な恐怖やストレス反応を和らげる効果が期待されています。
  • 痛みとの“共存”を学ぶ完全に痛みを消そうと抵抗するのではなく、「痛みがあっても、その感覚を客観的に眺められる」練習を続けることで、疼痛閾値や痛みに対する不安を下げる可能性が示唆されています。

(3) リラクゼーション法

  • 漸進的筋弛緩法(PMR)体の各部位(手、腕、肩、足など)を順番に数秒間ギュッと力を入れ、その後一気に脱力する。筋肉の緊張状態と弛緩状態を感じるトレーニング。
  • 呼吸法(腹式呼吸など)ゆっくりとお腹を膨らませながら吸い、しぼませながら吐く。副交感神経が優位になることで、心拍数や血圧が下がり、筋緊張も改善しやすい。

■ 4. 痛みによるメンタルダウンへの対処:うつ病や不安障害

(1) 痛みとメンタル疾患のオーバーラップ

  • 隠れうつの可能性慢性痛を抱える方のなかには、抑うつ症状や不安障害を合併しているケースが多い。
  • DSM-5における身体症状症身体的な症状(痛みなど)に過度の不安や思考が集中し、日常生活に顕著な支障をきたす状態。

(2) 心療内科・精神科の受診タイミング

  • うつ病の可能性を示唆するサイン2週間以上続く強い意欲低下、集中力の著しい低下、希死念慮などがある場合は早めに専門家(精神科・心療内科)へ相談。
  • 抗うつ薬・抗不安薬の役割抗うつ薬(SSRI、SNRI、三環系など)は、脳内モノアミン(セロトニン、ノルアドレナリン)を増やし、痛みの抑制系を補強する効果が期待される。

■ 5. 職場や家庭の理解と社会的支援

(1) 職場復帰・就労支援

  • 産業医や上司への相談仕事量や労働時間の調整、作業環境の工夫などを図る。
  • リワークプログラム心療内科やリハビリ施設で行われる「復職支援プログラム」。

(2) 家族・周囲のサポート

  • 「痛み=気のせい」ではない認識科学的に慢性痛が心理面とも絡むことを正しく理解してもらう必要がある。
  • コミュニケーションの工夫痛みの程度や辛いタイミングを言語化しやすいよう、日誌やアプリで共有する。

■ まとめと次回予告

ストレスや不安、うつ状態などの心理的要因が痛みを長期化・増幅させる構図は多くの研究で示唆されています。慢性痛を克服するためには、身体的ケアだけでなく、メンタルケアを同時に進めることが非常に重要です。次回(第8回)は、「慢性痛と上手に付き合うために――総合まとめと今後の展望」をお届けします。

■ 参考文献・推奨リソース

  • Turk DC, et al. Cognitive-Behavioral Approach to Pain Management. Bonica’s Management of Pain, 5th ed. Lippincott Williams & Wilkins, 2019.
  • Gatchel RJ, et al. The Biopsychosocial Approach to Chronic Pain. Psychol Bull, 2007.
  • Keefe FJ, et al. Mindfulness-Based Interventions for Chronic Pain. Psychol Sci Public Interest, 2020.
  • Morlion B, et al. Pain Chronification: What Should a Non-Pain Medicine Specialist Know? Curr Med Res Opin, 2018.

この記事を書いた人

岡本 賢

医師。愛育病院で小児科の臨床に立つかたわら、日経メディカルで連載。CrossFit Level 1 Trainer の資格を持ち、HYROX にも出場する。Business Athlete Club では、運動・睡眠・栄養の研究を、働く人の毎日の選択に訳して届けている。

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