栄養第7章8分で読めます

文化や異文化への拒否感:スキーマ理論と認知的閉鎖欲求

物語パート:「昆虫食フェスでの戸惑い」

週末のフードフェスに出かけた山田さん。世界各国の料理が一度に楽しめるイベントだと聞いて、ワクワクしながら会場を巡っていた。イタリア料理、韓国料理、タイ料理など、馴染みのある国のブースを堪能していたが……。山田「ん? あの列、何だろう……」人だかりができているブースに近づいてみると、看板には大きく「昆虫食」と書かれている。調理されたコオロギやタガメがずらりと並び、試食コーナーには興味津々の人々。だが、その光景を見た瞬間、山田さんは思わず一歩引いてしまう。

山田「うわっ……虫が料理になってる。食べるなんて信じられない……。」そこへ、イベントを取材中の佐藤教授が偶然通りかかった。佐藤「おや、山田さん。どうしたの? 珍しい料理に驚いたかな?」山田さんは苦笑いしながら小声で言う。山田「ちょっと衝撃的で……。でも周りの人は普通に食べてるんだね。私はまだ抵抗が強いというか、ぞわぞわしちゃって無理かも……。」すると佐藤教授は優しく微笑み、こう続けた。

佐藤「文化によって『これは食べ物』という枠組みが違うからね。知らない文化に直面すると、私たちは脳の“スキーマ”が対応しきれなくて拒否反応が起きやすい。それに“認知的閉鎖欲求”っていう心の働きも関係してるかもしれないね。『よく分からない状態が嫌』と感じるから、早く『ダメ』と決めつけてしまうんだ。」山田さんは興味深そうに聞きながらも、依然としてコオロギが並んだプレートを直視できないでいる。

山田「スキーマ……認知的閉鎖……。何それ? でも、確かに『未知のもの』を『絶対ダメ』って切り捨てたくなる感じはあるかも。」

スキーマ理論とは?

スキーマ(Schema)とは、人間がこれまでの経験や知識をもとにして作り上げた“認知の枠組み”のことです。

  • 「食べ物とはこういうもの」「こういう見た目・匂い・食感のものが口にするものだ」というイメージやルールが、私たちの中で“スキーマ”として形成されている。
  • そのスキーマに合わない物事に遭遇すると、脳は「予想外」「理解不能」と判断し、拒否反応や戸惑いを起こしやすいのです。スキーマが役立つ場面
  • 情報処理を効率化:似たような状況に出会ったとき、過去の経験を参照して素早く判断できる。
  • 学習や習慣化:繰り返し経験することで、“定番パターン”を脳内に作り、日常生活のあらゆる動作をスムーズにする。スキーマが偏見や拒絶感を生む場面
  • 異文化への拒否反応:昆虫食のように、自分の“食事スキーマ”から外れた対象を「気持ち悪い」と感じてしまう。
  • 新技術への拒絶:AIやロボットが普及するとき、「従来の『人間×機械』のイメージと違うから怖い」と思う。
  • 見た目や行動様式の違い:服装や言語、ジェスチャーが大きく異なる人を見ると、瞬時に「異質だ」と認識し、距離を置きたくなる。

認知的閉鎖欲求(Need for Closure)とは?

認知的閉鎖欲求とは、「曖昧な状態や不確実な状況をできるだけ早く“確定”させたい」という人間の心理的欲求です。

  • 「分からない」という状態に耐えられず、すぐに“白黒はっきり”させたくなる。
  • そのために、未知の対象を“既存のスキーマ”に無理やり当てはめたり、「嫌い」「危険」とレッテルを貼ってバッサリ排除しようとしたりする。なぜ起こるのか?
  • 不安やストレスの軽減:曖昧さや不明点があると心が落ち着かないため、早く結論を出して安堵したい。
  • 情報処理の省エネ:複雑で未知なものを深掘りするのはエネルギーがいる。ストレートに「これは違う」「受け入れられない」と結論づけるほうが楽。影響例1. 初対面の印象
  • 「よくわからないけど、この人ちょっと嫌な感じ」と早々に判断してしまい、後のコミュニケーションが難しくなる。2. ニュースや情報
  • 「深く考えるのは面倒だから、××は絶対に危ない」と決めつけてしまう。3. 異文化理解
  • 「何をやっているのか想像できないし、不確実だからとりあえず拒否」→ 多文化共生が進まない。

「理解できないものへの嫌悪」への影響

(1) 異質な対象を“スキーマ外”とみなし拒絶昆虫食や宗教儀式など、自分の当たり前から外れた事柄に遭遇すると、

  • 「こわい」「不快」 と感情的に反応し、あまり深く考えないまま拒絶。
  • 「そんなの非常識だ」と一蹴することで、不安定な認知状態を回避する。(2) 早期に結論づけて安心しようとする認知的閉鎖欲求が高い人ほど、
  • 曖昧な中間状態を嫌い、すぐに「好き or 嫌い」「安全 or 危険」とラベリング。
  • 深い理解や検証を行わないまま“決めつけ”が固定化し、むしろ理解が難しくなる。

(3) 偏見・ステレオタイプの強化スキーマは学習や慣れによってアップデートできるが、認知的閉鎖欲求が強いと「新情報を取り入れてスキーマを書き換える」というプロセスを面倒に感じる。

  • 結果:偏ったスキーマを温存し続け、異文化や新しいものに触れる機会を避ける。

スキーマ&認知的閉鎖欲求を和らげる4つのヒント

1. 「新しい枠組み」を学ぶ・体験する

  • 昆虫食の例:実際に食べてみる/生産過程や栄養価の説明を聞く→「昆虫=不衛生・気持ち悪い」というスキーマを書き換える小さなきっかけになる。
  • 外国文化:旅行や現地の人との交流で、「こういう価値観もアリなんだな」と実感。エクササイズ
  • 月に一度、まったく未知のジャンルのレストランやイベントに参加してみる。
  • 食わず嫌い・行かず嫌いを減らし、「新しい可能性」にオープンになる。

2. グラデーションを認める白黒はっきりさせたい衝動を抑え、「よく分からないからもう少し調べよう」「いまは判断保留にしてみよう」と中間の状態に許容度を持たせる。実践例

  • 「昆虫食? 今はちょっと抵抗あるけど、もう少し情報を集めてみる」
  • 「この人の言動が理解できないけど、一度先入観を横に置いて、複数回接してみてから判断しよう」3. メタ認知で自分のスキーマをチェック自分の「当たり前」と相手の「当たり前」がどこが違うのかを客観的に見る。
  • 「私が嫌だと感じるのは、ただ自分のスキーマと合わないからかもしれない。

相手の立場では普通なのかな?」と意識的に問いかける。4. 認知的不協和を活用し、スキーマを更新する過去の章で出てきた「認知的不協和」。もし自分が「昆虫食?あり得ない!」と思っていたのに、意外と「食べてみたら美味しかった」「そこまで抵抗なかった」と感じたとき、

  • 「自分が思ってたイメージと実体験が矛盾する」→ 不協和が生まれる
  • そこで「やっぱり平気かも」「新しい食文化だよね」と、スキーマをアップデートする。

まとめ&次回予告

文化や異文化への拒否感のポイント1. スキーマ理論

  • 自分の知識や経験で作られた枠組みに合わないものを拒絶しやすい。2. 認知的閉鎖欲求
  • 「わからない状態が嫌!」と早期に判断を下しがち。3. “未知=嫌悪”の連鎖を止めるには
  • 新しい情報や体験を取り入れ、スキーマを柔軟に書き換えること。
  • 白黒つける前に少し留保する姿勢が大切。

山田さんが戸惑った“昆虫食”のように、「これは無理」「あり得ない」と決めつけずに少しだけ勇気を出してみると、新しい世界が広がるかもしれません。

次回予告「AI時代のバイアス」:人間×AIの協働は夢か現実か次回は、「AI時代における認知バイアス」をテーマにお届けします。

  • 人間が持つバイアスをAIが補正してくれる? それともAI自体がバイアスを抱える?
  • 「AIに考えを奪われる」と恐れる心理はどこから来るのか?
  • 人間とAIが協働してより良い判断をするには?近未来の事例とともに、山田さんがAIを使って仕事をしようとして躓く(?)エピソードもあるかも…。どうぞお楽しみに!連載をより楽しむためのポイント1. 「自分のスキーマ」を意識的に見直す
  • 「これは常識」「こうあるべき」の根拠は何か?2. 保留や曖昧さを許容する練習
  • 「すぐ結論を出さなくてもいいや」と決めるだけで、見える景色が変わる。3. 異文化体験や新しい習慣にあえてチャレンジ
  • 拒否感を覚えたときこそ、意図的に「いや、ちょっと待てよ」と調べたり体験したりしてみると、思わぬ学びがある。それでは次回、「AI時代のバイアス」でまたお会いしましょう!

この記事を書いた人

岡本 賢

医師。愛育病院で小児科の臨床に立つかたわら、日経メディカルで連載。CrossFit Level 1 Trainer の資格を持ち、HYROX にも出場する。Business Athlete Club では、運動・睡眠・栄養の研究を、働く人の毎日の選択に訳して届けている。

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