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疲労の種類と鑑別診断:内科・精神科・神経科的視点からのアプローチ

■ はじめに

「疲れやすい」「全身がだるい」「休んでも回復しない」:こうした漠然とした訴えであっても、その背景には多様な病態や複合要因が潜んでいる可能性があります。前回(第1回)で触れたように、サイトカインバランスの乱れ・自律神経機能障害・ミトコンドリア機能低下など、分子レベルでの異常が示唆される一方で、うつ病や不安障害などの精神科疾患、甲状腺機能低下症や肝機能障害などの器質的疾患もしばしば「疲労」というかたちで表出します。本稿では、疲労を鑑別する際の“基本的な分類”から“病歴聴取の着眼点”“臨床検査の選択”を含む総合的なアセスメントの流れを紹介し、内科・精神科・神経科的アプローチの要点を整理していきます。

■ 1. 疲労の基本分類

疲労を鑑別するうえで、まずは大まかな分類を押さえることが重要です。代表的には次の3つの視点が挙げられます。

(1) 時間軸:急性疲労 vs. 慢性疲労

  • 急性疲労: 数日~数週間以内に発症し、十分な休養・睡眠をとることで回復するタイプ。感染症の急性期や一時的な過労が典型例。
  • 慢性疲労: 3~6か月以上持続する疲労感。

ICD-11では「慢性疲労症候群(CFS)」や「筋痛性脳脊髄炎(ME)」と関連づけられており、日常生活動作(ADL)やQOLを大きく阻害しうる。

(2) 原因軸:器質的疲労 vs. 機能的(非器質的)疲労

  • 器質的疲労: 甲状腺機能低下症、肝機能障害、貧血、心不全、感染症など、検査で何らかの異常所見が得られるもの。
  • 機能的疲労: 明確な器質的病変が見つからず、ストレス反応や心理・社会的因子が主に関与するもの。うつ病、不安障害、ME/CFSなど。

(3) 症候軸:身体症状 vs. 精神症状

  • 身体的要素が優位: 筋力低下、倦怠感、易疲労感、筋肉痛、関節痛など。
  • 精神的要素が優位: 抑うつ気分、不安、集中力低下、意欲減退、不眠など。

■ 2. 病歴聴取と身体所見の着眼点

(1) 病歴聴取で押さえたいポイント

  • 発症様式と経過発症が急激なのか徐々になのか
  • 悪化・軽快を繰り返しているのか、常に同程度の疲労なのか
  • 日内変動や季節性朝方が重いのか、夕方以降がつらいのか
  • 季節の変わり目で症状が顕在化するか
  • 併存症状発熱、体重減少、腫脹、発疹、リンパ節腫脹などの身体所見
  • 抑うつ気分、不安感、睡眠障害、焦燥感など精神科的所見
  • 生活背景・社会的要因長時間労働、シフト勤務、育児・介護負担、経済的ストレス
  • 長期休暇が取れているか、テレワーク環境に問題はないか

(2) 身体所見のポイント

  • バイタルサイン: 起立性低血圧、頻脈、低体温などを見逃さない(自律神経異常の示唆)。
  • 甲状腺触診: 甲状腺腫大の有無。
  • 表在リンパ節: 炎症性疾患やリンパ増殖性疾患の鑑別。
  • 皮膚・粘膜: 発疹、黄疸、蒼白、チアノーゼ。
  • 神経学的評価: 筋力低下(MMT)、巧緻運動障害、振戦、深部腱反射の亢進・低下。

■ 3. 疲労をもたらす主な疾患の鑑別フロー

(1) 内科的疾患

  • 甲状腺機能異常(甲状腺機能低下症、バセドウ病)
  • 肝機能障害(肝炎、脂肪肝、肝硬変)
  • 貧血(鉄欠乏性、慢性病、巨赤芽球性など)
  • 感染症(EBV、CMV、HIV、慢性肝炎など)
  • 自己免疫疾患(SLE、RA、シェーグレン症候群など)
  • 副腎不全(Addison病)

(2) 精神科的疾患

  • 大うつ病性障害(MDD)
  • 不安障害、適応障害
  • 自律神経失調症

(3) 神経科的領域・その他

  • 慢性疲労症候群(CFS)/筋痛性脳脊髄炎(ME/CFS)
  • Long COVID/Post-COVID症候群
  • その他の神経疾患(筋炎、多発性硬化症など)

■ 4. 臨床検査とバイオマーカーの活用

(1) 基本的スクリーニング

  • 血算・生化学: CBC、CRP、肝腎機能、血糖、電解質、TSH など
  • 尿検査: 尿蛋白・糖・沈渣
  • 必要に応じた画像診断: 胸部X線、腹部エコー、CT/MRIなど

(2) 追加検査

  • サイトカインプロファイル: IL-6、TNF-α、IL-1β など
  • 自律神経評価: 心拍変動(HRV)、24時間血圧モニタリング
  • ミトコンドリア機能検査: 末梢血単核球のATP産生能や酸化ストレス評価

■ 5. ここがポイント:診断プロセスの留意点

  • 除外診断の徹底
  • 精神科的評価の併用
  • 多職種連携
  • Long COVIDやME/CFSの考慮

■ 6. まとめと次回予告

疲労を訴える患者の初期評価・鑑別診断において重要なポイントをご紹介しました。次回は、栄養・運動・バイオマーカーを中心とした実践的なマネジメント戦略について解説します。どうぞお楽しみに。

■ 参考文献(一部抜粋)

  • Nakatomi Y, et al. Neuroinflammation in Patients with Chronic Fatigue Syndrome/Myalgic Encephalomyelitis. J Nucl Med. 2014;55(6):945-950.
  • NICE. Myalgic encephalomyelitis (or encephalopathy)/chronic fatigue syndrome: diagnosis and management [NG206]. Updated 2021.
  • Fukuda K, et al. The Chronic Fatigue Syndrome: a Comprehensive Approach to its Definition and Study. Ann Intern Med. 1994;121(12):953-959.
  • IOM. Beyond Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome: Redefining an Illness. The National Academies Press; 2015.
  • Komaroff AL. Advances in Understanding the Pathophysiology of Chronic Fatigue Syndrome. JAMA. 2022;328(6):556-557.

この記事を書いた人

岡本 賢

医師。愛育病院で小児科の臨床に立つかたわら、日経メディカルで連載。CrossFit Level 1 Trainer の資格を持ち、HYROX にも出場する。Business Athlete Club では、運動・睡眠・栄養の研究を、働く人の毎日の選択に訳して届けている。

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