ブランド創設者と設立背景(Mary-Kate & Ashley Olsenによる創設)
The Rowは、元子役でありファッションデザイナーでもあるメアリー=ケイト・オルセン(Mary-Kate Olsen)とアシュレー・オルセン(Ashley Olsen)姉妹によって創設されました 3, 10 。2005年当時、アシュレー・オルセンが「完璧なTシャツ」を作るという個人的プロジェクトに着手し、20代から60代まであらゆる体型の女性に試着してもらいながら理想的なフィット感を追求しました 3, 10 。
この試みは姉妹のデザイン志向を表すもので、既存の有名人プロデュースブランドへの偏見を覆す挑戦でもありました。翌2006年、オルセン姉妹は最初のカプセルコレクションとなる7点のウエア(上述のTシャツ、コットンサテンのレギンス、カシミアウールのタンクドレスなど)を発表し、高級百貨店バーニーズ・ニューヨークによりコレクション丸ごと買い付けられます 2, 3, 10 。こうしてThe Rowはニューヨークで正式にデビューを果たしました。
ブランド名「The Row(ザ・ロウ)」は、ロンドンの高級テーラー街「サヴィル・ロウ(Savile Row)」にちなんで名付けられています 2, 3, 10 。これは、ブランド自体に創設者の名前を前面に出さず、匿名性を保ちながら伝統的なテーラリングへの敬意を示す意図がありました 2, 3 。「有名人ブランド」というレッテルに頼らず、服そのものの品質とデザインで勝負したいというオルセン姉妹の姿勢がこの名称に表れています 。
実際、創業から3年間、彼女たちは自分たちの名前をブランドに結びつけることを避け、The Rowについてメディアにほとんど語らない戦略をとりました 2 。この静かな立ち上げにより、「オルセン姉妹の新ブランド」としての先入観ではなく、純粋にプロダクトの完成度で評価を得る道を選んだのです。オルセン姉妹は1980年代後半から子役として活躍し、一躍世界的な知名度を得ました。
しかしファッション業界への参入に際しては、その有名人としての知名度に頼ることなく、デザイナー兼経営者として真摯に取り組んでいます。姉のアシュレーは現在ブランドのCEO(経営最高責任者)を務め、妹のメアリー=ケイトはクリエイティブ・ディレクターとしてデザイン面を主導しています 5 。子役時代から築いた自社会社Dualstar(デュアルスター)傘下でブランドを開始しつつ、ファッション教育は受けていなかった二人ですが、優秀なパタンナーや職人との協業と自身の卓越した審美眼によってブランドを急成長させました。
創業当初、業界では「セレブの趣味的ブランド」と懐疑的な見方もありましたが、「最初のシーズンで顧客が服を購入すると、店舗バイヤーたちも再びオーダーに戻ってきた」とアシュレーが語るように 2 、確かな品質が実証されるにつれ評価を勝ち取りました。
デザイン哲学・美学・素材選定・製造背景(アトリエ、生産地など)
The Rowのデザイン哲学は、一貫してミニマルかつタイムレス(時代に左右されない)な美学に根ざしています。公式サイトによれば、創設以来**「卓越した生地、細部へのこだわり、精緻なテーラリング」に重点を置き、タイムレスな視点と控えめなアティチュードが融合した“クラシックでありながら反骨的”なシグネチャーを形成しているとされています 9 。
派手さやトレンド性よりも上質で長く愛せる服**を追求し、「控えめでありながら力強いシルエット」を探求する姿勢がブランドの核です 3, 5, 9 。具体的なデザイン特徴としては、極上のカシミヤ、シルク、ウール、革など厳選された素材使い、贅沢なまでにシンプルなカッティング、ゆったりとしたシルエットと中立的なカラーリング(オフホワイト、黒、ネイビー、ベージュなど)が挙げられます 3, 5 。
装飾やロゴを極力排した「静かなラグジュアリー(Quiet Luxury)」の体現者として 4, 5 、その服は一見控えめでありながら、手に取った際に伝わる素材の良さや仕立ての良さで圧倒する魅力を持ちます。実際、The Rowの白無地Tシャツは約550ドル(約8万円)という価格にも関わらず「完璧なカットと極上の肌触り」で知られ、ブランドを象徴するアイテムとなっています 2 。制作背景において特筆すべきは、生産の多くを自国アメリカ国内で行ってきた点です。
2015年時点の報道では、The Rowの商品は一部のセーター類を除きほぼすべて米国内で生産されており、その職人技と少量生産ゆえにTシャツ1枚300ドル~コート1着5000ドルに及ぶ価格設定になっていると伝えられました 2 。オルセン姉妹は生産工程にも妥協を許さず、「綿密なリサーチと試作」に数年を費やすこともしばしばです。実際、靴のカテゴリーをブランドに加える際には3年越しの開発期間を経てようやく製品化に踏み切った経緯があります 5 。
この完璧主義について、メアリー=ケイトは2023年のインタビューで「もっと良くする、もっと良くする、もっと良くする。その果てしない完璧主義こそが我々の常なる課題」と語っています 5 。このように、品質や仕立てに対する強いこだわりがブランドの評価を支える基盤となっています。美学面では、The Rowは「コンテンポラリーな視点で再解釈されたクラシック」を志向しています 5 。
過度な実験性は抑えつつも、伝統的なテーラリングに現代的な緩さやエフォートレスさを加味しているのが特徴です。例えば、テーラードジャケットやコートはメンズ仕立てのような構築的ラインでありながら、肩の力が抜けたリラックス感があります。また、長年愛用できる定番服に見えて、微妙なシルエットの誇張(袖やパンツの丈感、オーバーサイズとフィットの絶妙なバランスなど)によってモダンアートのような趣を醸し出すことも評価されています 3 。
こうした「一見シンプルだが計算され尽くしたディテール」はファッションエディターや上顧客から高く評価され、The Rowの服を「究極のベーシックウェア」として位置づける声もあります 3 。素材選定においては、前述の通り最高品質の天然素材が中心です。特にカシミヤやヴィキューナ、上質な革など、素材オタクともいえる拘りがあり、Loro Piana(後述)に匹敵する高級テキスタイルを用いています 2 。
2012年にはアーティストのダミアン・ハーストと組み、The Rowの代名詞であるワニ革バックパックにハーストのアートワークを施した限定コレクションを発表したこともあり、1点5万5千ドルとも報じられたこのバッグは話題を呼びました 10 。このようにブランドはアートとクラフトマンシップの融合にも積極的で、ニューヨーク近代美術館やノグチ美術館とのコラボレーション展示(2018年)など、服を文化的文脈で引き立てる演出も行っています 10 。
製造背景では、ニューヨークのトライベッカ地区にデザインスタジオ兼アトリエを構え(2011年開設) 3, 10 、ここを創作拠点としています。小規模なチーム(2015年時点で社員約60名、デザインチーム7名) 2 でスタートしたThe Rowですが、要所に経験豊富な職人や生産管理者を配し、大量生産ではない高級メゾン的な物作りを実現しています。また生産ネットワークは、アメリカ国内の縫製工場のみならず、カテゴリーによってはイタリアの名門工房なども活用しているとみられます。
いずれにせよ、「妥協なきクオリティ第一主義」が全プロセスに浸透しており、これがThe Rowのブランド価値を支える大黒柱となっています 2, 5 。
年ごとの主なコレクション、テーマとその評価(年表形式)
The Rowの約20年に及ぶ歩みを、主な出来事とコレクションのハイライトを中心に年表形式でまとめます。各年のコレクションは一貫したミニマル路線を保ちつつ、その時々で新たな挑戦や拡張が見られました。
- 2005年 – アシュレー・オルセンが「完璧なTシャツ」を作る個人プロジェクトを開始 3, 10 。多様な年齢・体型の女性にフィッティングを行い、ブランド立ち上げの着想を得る。
- 2006年 – ブランド公式創設。7点から成る初コレクションを発表し、バーニーズ・ニューヨークが全商品を買い付ける 2, 3, 10 。ブランド名「The Row」はSavile Rowから着想 2, 3, 10 。当初は創業者名を伏せ、製品の良さで評価を得る方針をとる 2 。この年のコレクションは上質なカットソーとレギンスなど極簡潔なアイテム構成で、「贅沢なベーシックウェア」として注目された。
- 2007年 – フルハウスで共演した女優のローリー・ロックリンらもプライベートでThe Rowを着用し始め、口コミで高感度な顧客に広がる。この頃からバーニーズ以外にも米国内の高級ブティックで取扱いが開始。
- 2008年 – ローレン・ハットン(当時64歳のスーパーモデル)を起用した初のルックブックを発表 3, 10 。ハットンは「シンプルでミニマルなデザインが素晴らしい」と称賛し、オルセン姉妹と意気投合 3 。当時10代の創業者が往年の大女優を広告塔に据えたことで話題となり、年齢を問わない普遍的デザインとして評価されるようになった 3 。一方で、この年頃から業界の懐疑的な見方(有名人ブランドへの偏見)も徐々に払拭され始め、ファッション誌でもデザイナーデュオとして取り上げられる。
- 2009年 – この年、オルセン姉妹はインタビュー集『Influence』を出版(自身が影響を受けたデザイナーやアーティストへのインタビュー本)。The Rowの知名度向上に寄与し、クリエイターとのネットワークを拡大。秋にはニューヨークで開催されたCFDA/Vogueファッション基金のファイナリストにノミネートされ、若手デザイナーとして注目を浴びる。
- 2010年 – Dualstar社社長にジル・コラージュを迎え、事業基盤を強化 10 。The Rowは依然メディア露出を抑制していたが、コレクション発表の場をニューヨークからパリに一時移すなどし、より高級志向の演出を行った(サロン形式でのプレゼンテーションなど)。この年頃から、ハイクオリティなレザーレギンスやブレザーが定番として人気を博す。
- 2011年 – メンズアイテムを初投入(2011年春メンズ向けカプセルコレクション) 3, 10 。また同年、ニューヨーク・トライベッカに本社スタジオを構え、パリ事務所も開設 3, 10 。2月にはTomsシューズとのコラボレーションを発表し、限定のシューズコレクションを展開(売上の一部を寄付) 10 。メンズ市場への参入はブランド拡大の布石となり、ユニセックスなミニマルデザインが好評を得る。秋冬コレクションではファー(毛皮)やエキゾチックレザーを用いた贅沢素材のコートやバッグが登場し、The Rowが本格的にラグジュアリーブランド路線を強めた年となった 10 。
- 2012年 – CFDAファッション賞「年間最優秀女性服デザイナー賞」受賞 10 (同賞への初ノミネートでの快挙)。さらに同年、WSJ(ウォールストリートジャーナル)イノベーター・オブ・ザ・イヤー(ファッション部門)も受賞 10 。オルセン姉妹は業界から正式に実力を認められ、The Rowは「セレブ発ブランド」の域を超えて一流ブランドの仲間入りを果たします。またアート分野とのコラボとして、ダミアン・ハーストと組んだラグジュアリーなバックパックの限定シリーズを発表 10 。斬新なアート×ファッションの試みに注目が集まり、The Rowのクリエイティビティの幅を印象づけました。この年、ローレン・ハットンがCFDA授賞式にオルセン姉妹と同行し、彼女たちの受賞を讃えている 10 。
- 2013年 – 前年の成功を受け、The Rowはアクセサリー分野を強化。高品質なレザーバッグ(「ボストン」バッグなど)やアイウェアを発表し始める。ニューヨーク近代美術館(MoMA)のストアで期間限定コラボポップアップを開催するなど、ブランドの芸術的側面を打ち出すマーケティングを展開。コレクション的には落ち着いた年だったが、素材のさらなる高級化(ロロ・ピアーナ社のカシミヤ生地を採用する等)や、職人チームの充実によるクチュールライクな仕立てが進む。
- 2014年 – 初の直営店がロサンゼルスにオープン(メルローズプレイス8440番地) 9, 10 。一軒家を改装した隠れ家的店舗で、自然光とミッドセンチュリー家具を配した空間デザインが話題に。※このLA店の内装は高く評価され、2016年にシカゴ・アテナイオン建築賞を受賞しています 9 。同年、CFDA「年間最優秀アクセサリーデザイナー賞」受賞 10 。秋にはイギリス人アーティスト、グレイソン・ペリーとのトークイベントを開催し、ファッションとアートの対話を深める試みも。この年の秋冬コレクションは、カシミアのオーバーサイズコートやミニマルなイブニングドレスが好評で、「静かなる贅沢」を極めたとして業界内で賞賛されました。
- 2015年 – ニューヨーク(マンハッタン)に2号店開業の準備を進める(翌年春にオープン予定のため改装開始) 9 。この店舗はNYアッパーイーストサイドのタウンハウス(イースト71丁目17番地)で、LA店同様ラグジュアリーかつホームライクな空間となる予定。6月、CFDA「年間最優秀女性服デザイナー賞」再び受賞 10 (3年間で2度目)。The Rowは米国女性服のトップブランドとの評価を確立します。秋冬2015コレクションでは、ニューヨークでのランウェイショーを敢えて小規模に留め、緻密なカッティングのパンツスーツや贅沢なファーコートなどが発表されました 2 。同年10月、パリ郊外のクーランセ城で春夏2016コレクションを発表 10 。静謐なフランスの城館でのショー演出が「詩的でミステリアス」と評され、The Rowの美学を際立たせる演出として称賛されました 10 。この「パリ進出」により、グローバルでの評価も一段と高まります。加えて、2015年はアイウェアブランドのOliver Peoplesとの協業によりアイウェアコレクションを発表(サングラスと眼鏡) 10 。The Rowの世界観を反映したアイウェアは洗練されたデザインで人気商品となりました。
- 2016年 – ニューヨーク旗艦店オープン(2016年5月) 9, 10 。アッパーイーストサイドのタウンハウスを改装した店舗で、プレフォール2016コレクションに合わせて開店しました 10 。店内にはヴィンテージ家具や現代アートが配され、単なる販売空間ではなくブランドのライフスタイルを体現する場となっています。またこの年、The Rowはパリファッションウィークで2度目のコレクション発表を行います (※パリ進出は異例で、The RowはNYコレクションが基本)。これにより欧州市場でのプレゼンスが向上。クリエイション面では、これまで控えていたフットウェア(靴)コレクションを本格展開。ローファーやミュールなど、一見プレーンだが極上素材と履き心地の靴が登場し、評判となりました。また2016年秋、数シーズン中断していたメンズウェアの再ローンチを発表 10 。LA店とNY店で限定展開し、徐々にアイテム数を拡大する計画が示されました。
- 2017年 – 静かな年ではあるものの、この頃からThe Rowは「Quiet Luxury(静かな贅沢)」の代表格としてメディアで言及され始めます 5 。コレクションでは引き続き上質素材のミニマルウェアが中心ですが、特に秋冬2017では贅沢なカシミヤニットのセットアップや、ぬくもりのあるムートンコートなどが好評を博しました。オルセン姉妹自身は相変わらず表舞台に立ちませんが、雑誌WWDやVogueのインタビューに少しずつ応じ始め、ブランドの哲学(「タイムレスであること」「品質への妥協なき姿勢」など)について語っています 5 。
- 2018年 – フルラインのメンズウェアを正式にデビュー。2年間のリサーチを経て仕上げられたメンズコレクションは、スーツ、デニム、ニットなど幅広いアイテムを網羅し、2018年10月から店舗展開されました 10 。シンプルながらもシルエットにこだわったメンズ服は高評価を受け、The Rowは男女両市場でのプレゼンスを確立します。また2018年2月、NYファッションウィークでの秋冬ショールームにてイサム・ノグチの彫刻作品とコラボレーション 10 。ショールーム空間にノグチの彫刻や「あかり」ライトを配し、その中をモデルが歩く演出が芸術的だと話題に。9月にはNYのドーバーストリートマーケットでもノグチとのインスタレーションを開催し、ファッションとアートの融合をさらに発信しました 10 。経営面では同年、ロンドンに欧州拠点オフィスを開設 し、ヨーロッパでの卸売・マーケティングを強化。さらにアイウェアではOliver Peoplesとの2度目の協業を実施し、1990年代風のビンテージライクなフレームを発売 10 。この年、The Rowは「静かなる成功」を収めていると多くのメディアに評され、ビジネス面でも好調でした 5 。
- 2019年 – ロンドンに初の直営店をオープン(5月、メイフェア地区Carlos Place) 9, 10 。これが米国外初の旗艦店となり、ヨーロッパでのブランド浸透に大きな役割を果たします。ロンドン店はメンズ・ウィメンズ両コレクションを扱い、英国顧客にもThe Rowの世界観を直接訴求する場となりました 9 。6月、オルセン姉妹はCFDA賞の「ファッションアイコン賞」に相当する栄誉を受け(キャリアを通じた貢献への表彰)、業界内での確固たる地位を再確認します。またこの年、著名デザイナーのフィービー・ファイロ退任後のCéline(セリーヌ)難民と呼ばれる顧客層がThe Rowに流入していると話題になり、フィービー時代のセリーヌを愛した層がThe Rowを新たな拠り所にしていると分析されました 5, 10 。商品面では、新作バッグ「マルゴー(Margaux)」が投入されます。クラシカルなボストン型ハンドバッグであるマルゴーは、その価格約7,000ドルにもかかわらず発売後すぐに完売を繰り返し、The Row初の“Itバッグ”として熱狂的な人気を博しました 10 。セレブリティの間でもマルゴーバッグは「ステータスシンボル」となり、ゾーイ・クラヴィッツやジェニファー・ローレンスらが愛用していることが報じられています(「次のバーキン」と称する声も) 7, 10 。この成功により、アクセサリー分野でもThe Rowは確固たる存在感を示しました。
- 2020年 – 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによりファッション業界全体が打撃を受ける中、The Rowも経営的な困難に直面します。7月の報道によれば、パンデミック下で売上が落ち込み、さらに主要取引先であったバーニーズ・ニューヨークが2019年に経営破綻した余波もあり、社員の半数をレイオフ(一時解雇)する事態となりました 10 。順風満帆に見えたブランドにも試練の時期でしたが、オルセン姉妹は固定費削減などでブランド存続を図りつつ、次なる成長戦略を模索します。一方クリエイションでは、この年もランウェイショーは行わずルックブック形式でコレクションを発表。パンデミック下で求められる心地よさに対応した贅沢な部屋着風ニットウェアやカシミヤのマスクなども投入されました。結果として富裕層の巣ごもり需要を捉え、2020年後半にはEC経由の売上が回復傾向を見せます。
- 2021年 – コロナ禍からの回復期。推定年間売上高1億ドル規模に到達したとも報じられ 10 、苦境を乗り越えブランドは健在であることを示しました。同年9月、ブランド初の子供服コレクションを発表 10 。ミニマルで上質なキッズラインは「小さなThe Row」として話題になり、一部顧客層(創業当時若かった顧客が親世代となっていた)から支持を得ます。また、他ブランドがSNSでのライブ配信等に舵を切る中、The Rowは依然として慎み深いマーケティングを維持しました。秋冬2021シーズンには、メンズ・ウィメンズ合同のルックブックをノスタルジックなビデオ風に仕上げ、デジタルでも独自の静謐な美学を表現します。この頃からNetflixドラマ『サクセッション』のヒットによる“旧金持ちスタイル”ブーム(Quiet Luxuryトレンド)が起こり、The Rowはその象徴的ブランドとして一般にも知られるようになっていきました。
- 2022年 – Quiet Luxury(静かなラグジュアリー)トレンドが世界的に本格化し、The Rowへの関心がさらに拡大。ニューヨークのメトロポリタン美術館(Met)が開催した展覧会「In America: A Lexicon of Fashion」にはThe Rowのニットのセットアップが展示され 10 、アメリカンファッションにおける象徴的ブランドの一つとして位置付けられました。商品展開では、ホームコレクション(カシミヤのブランケットやアロマオイル)を開始し 10 、ライフスタイルブランドとしての側面も打ち出します。これらは大量展開ではなく限定的でしたが、上質な暮らしへの提案というブランド理念に沿った拡張でした。メディア露出面では相変わらず控えめながら、顧客層ではGen Z(Z世代)にも静かなブームが起きます。米リセールサイトの調査によれば、2022年から2023年にかけてZ世代のThe Row検索数が29%増加し、平均購入単価も18%上昇するなど、若年層が中古市場も活用しながら同ブランドを手に入れ始めていると報じられました 6 。こうした動きはQuiet Luxury人気の広がりを裏付けています。
- 2023年 – 「静かなるラグジュアリー」の年と言われるほど、この潮流が大きくフォーカスされた年でした。The Rowはその代表格として度々メディアに取り上げられ、例えば英Vogueは「フィービー・ファイロのセリーヌ時代を愛したGen Xやミレニアルだけでなく、Gen Zまでもこのトレンドに乗り始めている」と分析しています 6 。3月、フィナンシャル・タイムズ(FT)誌にオルセン姉妹の独占インタビューが掲載されました(創業以来ほとんど公の場で話さなかった二人にとって極めて珍しい試み) 5 。記事タイトルは「The very stealthy success of The Row(The Rowの極めてひっそりとした成功)」で、彼女たちの20年近い歩みと今後の展望が語られています 5 。その中でメアリー=ケイトは「私たちはただのプライベートな人間なの。子供の頃からずっとインタビューを受けてきたけれど…」と語り、必要以上の露出を避けてきた理由に触れました 5 。ブランドの成功について問われると、アシュレーは「私たちは自分たちの会社を自分たちで所有しています。他の誰かから何をしろとか売上目標を課されているわけではない。プレッシャーはすべて内部から来るもので、外部から与えられるものではありません」と述べ 5 、外部資本に左右されない中で自ら高い基準を課してきた姿勢を明かしました。この発言は長年独立経営を貫いてきたThe Rowの哲学を端的に表しています。秋にはファッション界の注目ニュースとして、フィービー・ファイロ自身が新ブランドを立ち上げ(Phoebe Philoブランド、9月発表)ましたが、多くのメディアが「The Rowは最も成功したフィービー的ブランドであり、彼女の再始動はThe Rowにとって唯一の競合出現かもしれない」と論じました 5 。またこの年、The Rowのマーケティングが一層独自路線を貫きます。パリで行われた2024年リゾートコレクションのショーにおいて「来場者は写真撮影・SNS投稿を控えてください」という異例のお願いをしたのです 4, 10 。ゲストに配布された案内状には「ご体験の内容を撮影・共有しないようお願いいたします」と記され、実際ショー中はスマホでの録画が禁止されました 4 。この「ノーSNS方針」は業界に衝撃を与えつつ、「究極のエクスクルーシビティ(排他性)戦略」として話題になりました 4 。Vanessa Friedman(NYTimesファッション・ディレクター)もこの通知をX(旧Twitter)で紹介し、ファンからは賛否の声が上がりました 10 。しかし結果的に「限られた者しかその場を体験できず、ルック写真公開も大幅に遅らせる」という演出は、The Rowのミステリアスな魅力を一層高めたと言えます。 このように2023年は、ブランドの静かな熱狂ぶりがピークに達した年となりました。
- 2024年 – 歴史的な資本提携が実現。
9月、フランスのシャネルを所有するウェルトハイマー家(兄弟)およびロレアル創業家の相続人フランソワーズ・ベタンクール=マイヤーらが、The Rowに少数株主として出資したことが報じられました 1, 8 。この投資によりブランド評価額は約10億ドル(約1500億円)とされています 1, 8 。
さらにネットアポーター創業者のナタリー・マッセネットやベンチャー投資家のニック・ブラウンも出資に参加し、オルセン姉妹は引き続き過半数株を維持する形で経営権を握り続けることが確認されました 1, 8 。BoFの報道によれば、この提携はThe Rowのさらなる国際展開を見据えたもので、外部資本の協力を得つつも創業者のビジョン主導を守る形となっています 1 。5月にはパリに待望の旗艦店がオープン (1区サントノレ地区モン・タボール通り) 9, 10 。
The Row Parisブティックはラフィアや木、石など自然素材を用いた温かみある内装で、洋服を前面に出さないミニマルな空間演出がなされています 9 。控えめなコミュニケーション戦略で知られる同ブランドらしく、大々的な宣伝は打たずインスタグラム上でシンプルに「The Row Paris, 1 Rue du Mont Thabor」と告知したのみでした 9 。
それでも、このフランス初出店はThe Rowの国際的地位を象徴する出来事であり、ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドンに次ぐ4つ目の旗艦拠点となりました 9 。同年、The Rowは引き続きニューヨークファッションウィークでコレクション発表を行い、冬2024コレクションではクラシックなブレザーやリラックス感のあるシルクパンツなど「静かな中に豊かさをたたえた」ルックを披露します。
総じて2024年は、外部資本との提携による組織体制の変化と新店舗オープンによる物理的拡張が同時に進んだ年であり、The Rowが新章へ踏み出した年と位置付けられるでしょう。
マーケティング/PR戦略・広告媒体・SNS戦略
The Rowのマーケティング戦略は、その製品同様極めて洗練され、控えめです。他のラグジュアリーブランドが大規模な広告キャンペーンやSNSでの露出合戦を繰り広げる中、The Rowは創業以来一貫して「プロダクトと顧客との直接的な関係性」を重視し、ノイズの少ないPR方針を取ってきました 2, 3, 5 。ブランド初期には姉妹自らメディアに登場することを避け、広告もほとんど打たないことで知られました 2, 3 。
2010年代前半になっても、雑誌広告キャンペーンは最小限で、例えば有名モデルや女優ではなく自身のミューズ的人物(例:ローレン・ハットンなど)を起用するなど、一般的な豪華路線とは一線を画していました 3 。こうした戦略は、「有名人ブランド」であることを前面に出すのではなく「匿名性=洋服そのものの語り」を優先するという創業時の哲学につながっています 2, 3 。
広告媒体としては、これまで限定的なプリント広告(雑誌WやVogueなどにおいて雰囲気重視のビジュアルを掲載)を行った程度で、大々的なTV広告やビルボード展開などは実施していません。その代わり、顧客体験や口コミに重きを置いており、一度ブランドの服を手にした顧客がその良さを周囲に伝えてくれることを狙っています 2 。この「静かなマーケティング」は功を奏し、実際にセレブリティの私服やスタイリスト経由でブランド認知が広まるという現象が起きました。
また、直営店の空間や接客も重要なマーケティング要素と捉え、来店客がブランドの世界観を深く体感できるよう工夫されています。例えばLA店やNY店では、商品を美術館の展示品のようにゆったりと配置し、スタッフも過度な売り込みをせず顧客に自由に素材感やシルエットを味わってもらう演出をしています 9 。このような洗練されたサービス体験が富裕層顧客の心を掴み、リピーター育成につながっています。
SNS戦略については、The Rowは長らく公式インスタグラムアカウントさえ持たない方針で知られてきました(※現在ではInstagramアカウントは開設していますが投稿頻度は低く、2024年時点でフォロワー約300万・投稿数約2000に留まります) 10 。ブランド公式SNSでは商品のルック画像や店舗情報の告知を行うものの、他ブランドのような舞台裏動画やライブ配信、インフルエンサーとのコラボ企画などはほとんど見られません。
むしろ2024年のリゾートコレクション発表時には、来場者に対し写真・動画撮影を禁止するという徹底ぶりでした 4, 10 。この「ノーSNS」ポリシーは賛否を呼びましたが、「お金は叫び、富は囁くというけれど、The Rowには一切叫びが存在しない」とVogue誌が評したように 4 、真のラグジュアリーは喧騒の中でなく静けさの中に宿るというブランドの哲学を体現しています。
実際、リアルタイムでSNSに流れないことで希少性がさらに高まり、公式ルック写真が公開される頃にはファッション関係者の期待感がピークに達するという効果も生まれました。またThe Rowはインフルエンサーマーケティングに頼らない方針も特徴です。著名インスタグラマーやセレブに商品を提供して宣伝してもらう手法は一般化していますが、同ブランドはそうしたプロモーションを公には行っていません。
それでも結果的に、実力派の女優やモデルたちがプライベートで同ブランドを愛用しSNSに登場するケースが増え、オーガニックな形での露出が確保されています(例:モデルのヘイリー・ビーバーがThe Rowのコートを着て空港に現れSNSで話題に、など) 7 。このように、直接的な宣伝よりも「本物が選ぶ、本物の服」というブランディングがなされており、逆説的にそれが若い世代にもクールな存在として映っています 7 。PR活動としては、ファッションメディアとの関係構築は極めて良好です。
BoFやWWD、Vogueなど業界有力媒体はThe Rowをしばしば特集し、「静かなる成功」「究極のクオリティ志向ブランド」といった文脈で取り上げます 2, 5 。これは派手な広告契約なしに得ている評価であり、ブランドの硬派な姿勢がむしろメディアの関心を引きつけているといえます。オルセン姉妹自身も必要最低限の範囲でインタビューに応じ、ブランドのミステリアスな雰囲気を損なわないよう注意しています。
Ashley Olsenは「私たちは会社を自分達で所有しているので、誰かに何をしろと言われることもなく、プレッシャーは自分たちの内から生まれるもの」と語り 5 、外部の声に左右されない独自路線をPR面でも示しています。このようにThe Rowのマーケティング/PR戦略は、ラグジュアリーブランドの中でも異色の「寡黙なマーケティング」と言えるでしょう。
大量の広告費やSNSバズに頼らずとも、製品力と選ばれた顧客層への浸透によって確固たるブランド価値を築いている点で、極めて現代的かつ先鋭的な戦略と評価されています 4, 5 。その一方で、2020年代半ばに新世代の富裕層がデジタルで情報収集する傾向を考えると、今後どの程度SNSやデジタルマーケにシフトするかは注目ポイントです。
しかし現状では、「知る人ぞ知る」ブランドであり続けることで神秘性と憧憬を維持するという姿勢が、The Rowの最大のマーケティング資産となっています 5 。
経営体制、資本関係、流通戦略(卸、EC、自社店舗展開)
経営体制The Rowは創業以来長らくオルセン姉妹が全株式を保有するプライベートカンパニーとして運営されてきました 5, 10 。親会社は彼女たちが幼少期からのビジネスを統括していたDualstar Entertainment(デュアルスター)で、The Rowも2005年~2023年まではDualstar傘下にありました 10 。
姉妹が自らCEO(アシュレー)とクリエイティブ・ディレクター(メアリー=ケイト)を務め、デザインから経営判断まで深く関与する体制です 5 。社員数はブランド成長に伴い増えていますが、比較 Küçük な組織を保っており、2015年時点で約60名だったスタッフは2023年現在でも数百名規模に留まります 2 。
主要ポジションには、ファッション業界経験者であるプレジデント級の人材や、生産管理ディレクターなどが名を連ねますが、一般的な大手ブランドに見られるようなクリエイティブ・ディレクターとCEOの分離(外部招聘)といった体制にはなっていません。オルセン姉妹自身が両輪となってブランドの意思決定を行う、まさにオーナーデザイナーブランドの形態です 5 。しかし2024年には前述のように、外部資本の受け入れが大きな転機となりました(シャネル家・ロレアル家らからの出資) 1, 8 。
この資本提携により、Dualstarの下で運営されていたThe Rowは新設のTR Holding社に移管され、オルセン姉妹が引き続き経営権を持ちながらも少数株主として名門一族やファッション業界の重鎮が加わる体制となりました 1, 8 。Mary-KateとAshleyは引き続き過半数の株式を維持するため、ブランドのクリエイティブや戦略方針は従来通り姉妹主導であると見られています 1, 8 。
このような外部資本導入の背景には、グローバル展開や新規事業拡大のための資金・知見が必要と判断したことが推測されます。一方で、出資者側(シャネルのオーナー家など)もThe Rowの独自性を尊重し長期的視点でサポートする意向だと報じられています 1 。したがって、今後も創業者のビジョンを軸に置きつつ、資本面では強固になったハイブリッドな経営体制へ移行したといえます 1 。
資本関係上述の通り2024年からはオルセン姉妹と外部投資家による共同保有となりました。具体的には、シャネルを所有するウェルトハイマー家のファミリーオフィス「ムース・パートナーズ(Mousse Partners)」、ロレアル創業家ベタンクール=マイヤー氏の投資会社「テティス(Tethys Invest)」がそれぞれ少数株を取得し、さらにファッション業界で投資家へ転身したナタリー・マッセネット(Net-a-Porter創業者)&ニック・ブラウンのコンビもベンチャー投資会社Imaginary Venturesを通じて出資しています 1, 8 。
これら投資によりThe Rowの評価額は約10億ドルに達したとされ、オルセン姉妹は引き続き筆頭株主の地位を維持します 1, 8 。株式の過半を創業者が持つ限り、経営方針に大きな変更は起きにくいですが、少数株主に世界的名門が入ったことはブランドの信用力向上につながります。また同時期、DualstarからThe Row事業が分割されTR Holding社傘下になったことで、将来的にさらなる資本参加(例えばIPOや追加増資)の可能性も開かれました 1 。完全独立経営からパートナーシップ型経営へ、The Rowは新たな局面に入りつつあります。
流通戦略The Rowの流通は、創業当初から高級セレクトショップや百貨店での卸販売と自社直営チャネルを組み合わせた戦略を採っています 2 。2000年代後半、まずバーニーズ・ニューヨークが旗艦店としてブランドを育成し、その後ベルドーフ・グッドマン(Bergdorf Goodman)やネイマーカスなど米国内の一流百貨店、ロサンゼルスのマックスフィールド(Maxfield)といった高級ブティックが取扱いを開始しました 2, 10 。
2015年時点で、The Row製品は世界37か国・164店舗で販売されていたと報じられています 2 。これらは厳選された販売先で、大衆的なチェーンストアには供給しないポリシーを貫いています。あくまで富裕層顧客が集う場(高級百貨店や高感度ブティック)のみで展開することで、ブランドの希少性と高級感を維持してきました。
直営店は2014年のロサンゼルス店開業以降、ニューヨーク(2016年)、ロンドン(2019年)、アマガンセット=ニューヨーク郊外(2022年夏季の季節店舗)、パリ(2024年)とグローバルに5店舗を構えています 9 。自社店舗ではフルコレクションを揃え、ブランド体験を提供するハブとして機能しています。特にロンドン店・パリ店の開業は卸売主体だった欧州でのプレゼンス強化につながりました。
今後はアジア(例えば中国・中東)の主要都市への出店も見込まれており、2023年には中国・成都の高級モール「SKP」内にポップアップストアを出したとの報もあります。EC(電子商取引)については、公式オンラインストアを運営しており、米国・欧州・日本など世界各国への配送に対応しています。公式サイトではウェアからバッグ、シューズまで幅広い商品を直接購入可能で、顧客との直接的な関係構築に寄与しています。
また外部ECとしては、Net-a-Porter(ネットアポーター)やMyTheresa、MatchesFashionといった高級ファッション通販サイトで早くから取り扱われてきました 10 。特にNet-a-Porterはオルセン姉妹とも親交が深く、創業者ナタリー・マッセネットは顧客としてThe Rowを愛用していたとも言われ、後に投資者としても関与しています 1 。
こうしたラグジュアリーECでの展開により、地理的制約のある顧客にもブランドを届けつつ、値引き販売を行わないなどの条件でブランド価値を守っています。流通戦略全体の特徴は、「チャネルを絞り、コントロールする」点にあります 5 。大量の店舗を展開して売上拡大を狙うより、出店も卸先も慎重に選び抜き、希少性マーケティングを実践しているのです。
そのため、一部の人気商品(例えば前述のマルゴーバッグ)は常に品薄状態で、顧客がウェイティングリストに名を連ねる状況も珍しくありません 5 。しかしそれこそがブランドへの渇望感を生み、結果的に高い利益率を維持することにつながっています。The Rowは安易なディスカウントセールも行わず、過剰在庫を出さない慎重な生産計画を敷いていると見られます。卸販売と直販のバランスも巧妙です。
かつて大口卸先だったバーニーズ破綻の際には大きな痛手を被りましたが 10 、逆にそれ以降は自社店舗・ECの売上比率を高めてリスク分散を図っています。現に2020年のコロナ禍では公式オンラインストアが活躍し、顧客との直接関係の重要性が浮き彫りになりました。今後、外部資本の協力によりさらなる直営店展開が予想され、2025年以降にはアジアでの旗艦店開業なども取り沙汰されています。
もっとも、展開地域が増えても、全世界で30店舗以下など限定的な規模に留めることで、エクスクルーシブなブランドイメージを守るだろうと業界では見られています。総じて、The Rowの流通戦略はブランド価値を最優先した「スロウ・グロース(緩やかな成長)」型と言えます 5 。オルセン姉妹は「自分たちの会社を自分たちで所有している」ため、四半期ごとの売上目標に追われることなく、長期的な視点でチャネル戦略を描けていると述べています 5 。この独立性が、他ブランドには真似できない大胆かつ堅実な流通戦略を可能にしているのです。
ファッション業界内での位置づけ(ラグジュアリーブランドとしての評価)
The Rowは2020年代半ば現在、アメリカを代表するラグジュアリーブランドの一つとして確固たる地位を築いています。その評価は単に「セレブ発の成功ブランド」という枠を超え、「究極のクオリティと静謐な美学を体現するハウス」として位置づけられています 5 。実際、「The Rowは、ロロ・ピアーナやフィービー・ファイロ時代のセリーヌに対するアメリカからの回答である」と評されたこともあり、老舗ヨーロッパブランドに匹敵する品質と洗練度を持つ存在として認識されています。
有力ファッションメディアのBusiness of Fashionは、The Rowを「彼女たち世代で最も成功したアメリカンファッションブランド」と評し、その静かな躍進を分析しています 1 。またBoF 500(ファッション業界の影響力者リスト)にはオルセン姉妹が名を連ねており、その紹介では「大方の予想を覆し、セレブブランドの常識を変えた」といった趣旨の評価が記されています。
創業から10年足らずでCFDAの主要部門を複数回受賞した実績 10 や、メトロポリタン美術館のファッション展に作品が収蔵されるといった名誉 10 は、業界内での評価の高さを物語っています。The Rowは、とりわけ「Quiet Luxury(静かな贅沢)」の文脈で語られることが多くなっています。2023年前後の世界的なQuiet Luxuryトレンドにおいて、同ブランドはしばしば「そのムーブメントの長年のマスコット的存在」と称されました 4, 5, 6 。
実際、ファッション誌が選ぶ「クワイエットラグジュアリーを体現するブランド10選」には必ずと言って良いほどThe Rowが挙げられ、Z世代を含む幅広い層に「ロゴやモノグラムではなく本質的価値で勝負する高級ブランド」として認知されています 6 。他のQuiet Luxuryブランド(例えばブルネロ・クチネリやエルメス、ロロ・ピアーナ等)と肩を並べる評価を得ており、富裕層顧客にとって「If you know, you know(知る人ぞ知る)」最高級ブランドの一つです 5 。
またThe Rowは、近年ファッション界で議論になるサステナビリティやタイムレス消費の好例としても挙げられます。大量生産・大量消費の対極にあるブランドであり、質の良いものを長く使うという価値観を体現しているため、「アンチ・ファストファッションの最高峰」として称賛する声もあります。もっとも、製品価格が非常に高いため持続可能性という観点では一部の富裕層しか手が届かないジレンマも指摘されますが、それでも高品質で長持ちするアイテムを提供している点は評価に値するとされています。
ファッション評論家や他のデザイナーからの評価も概ね高いです。例えば元Vogue編集長のアンドレ・レオン・タリーは「The Rowのショーは禅のような体験であり、その静けさにラグジュアリーの本質を見た」とコメントしています 10 。またデザイナーのトム・フォードもかつて「オルセン姉妹の服作りへの真摯さには感心する」と述べ、彼女たちの成功を称えました(トム・フォードはCFDA会長として姉妹に賞を授与した経験があります) 10 。
当初懐疑的だった一部批評家も、実際に製品を手に取るうちに「これは本物だ」と認めざるを得なくなったという声があり、2010年代後半にはThe Rowに対するネガティブな評価はほとんど聞かれなくなりました。欧米市場において、The Rowはハイエンドコンテンポラリーブランドの枠を超え、もはやフルラインのラグジュアリーメゾンとみなされています。
ウィメンズ・メンズ・アクセサリーと一通りのカテゴリーを揃え、自前の直営店を持ち、国際的な賞も受賞しているため、その意味ではディオールやセリーヌ、ヴァレンシアガなどといった老舗高級ブランドと肩を並べる存在です。ただし、規模(年商)や知名度ではそれらメガブランドより小さくニッチな高級ブランドに属するため、ファッション産業全体の中では「小さくとも影響力の大きいブランド」という独特の立ち位置と言えるでしょう 。
一方で、The Rowはアメリカ発のブランドとしては異例の成功例でもあります。多くのアメリカンブランド(例えばラルフローレンやマイケルコースなど)は商業的成功を収めつつも大量生産やライセンス展開によって大衆化しがちですが、The Rowは徹底して高級路線を貫き、ブランドの純度を維持しています。この点で、「アメリカ版エルメスを目指す存在ではないか」と見る向きもあります 5 。
実際、オルセン姉妹が社内でしばしばエルメスを引き合いに出すというエピソードも報じられており、究極の目標は世代を超えて評価されるタイムレスブランドであることが示唆されています 5 。総合すると、The Rowの業界内での位置づけは「静かなる超高級ブランド」そのものです 5 。静謐さと品質を武器に市場で独自のポジションを築き、同業他社からも一目置かれる存在となっています。
その成功は、今後のセレブリティデザイナーブランドの手本・ロールモデルになるとも言われており、ラグジュアリーブランドの新しい形を提示したという点でファッション史的にも意義深いと評価されています 5 。
主な顧客層とその変遷(富裕層、ミレニアル、Z世代など)
創業当初の顧客層The Rowのターゲット顧客は、当初から富裕層の中でも目の肥えた大人の女性でした。オルセン姉妹はブランド立ち上げ時、「有名人コレクションを嫌厭し、本当に良質なものだけを買う世界中の目利きの女性たち」に着目していたと言います 3 。それゆえルックブックに64歳のローレン・ハットンを起用するなど、年齢層高めのエレガントな女性が憧れるイメージ戦略を採りました 3 。
実際、ブランド初期にはニューヨークやLAの富裕層マダム層(社会的地位が高く洗練された女性たち)が中心顧客でした 2 。WWD誌は2015年に「The Rowの着実な台頭は伝統的でない。これは10年前ティーンの双子によって始められた、成熟した女性のための極上のクラシック服なのだ」と評しています 2 。その言葉通り、創業者が20代前半でありながら、顧客層は彼女たちより年上が多かったことが特徴です。
ブランドスタート時からの定番アイテムである黒のブレザー、完璧な白Tシャツ、上質なレギンスなどは、若者よりもむしろキャリア女性や富裕層主婦に支持されました。The Rowの商品価格帯はTシャツ数万円、コートで数十万円~百万円超と非常に高いため、経済的に余裕のある層が前提となります 2 。具体的には上位富裕層(年収数百万ドル級)の女性、ファッションコレクター的な人々、セレブリティやそのスタイリスト、ファッション業界のプロフェッショナルなどが初期の主顧客でした。
オルセン姉妹自身、「お客様はとても洗練されていて、自分たちより背の高い女性ばかりだった」と冗談交じりに語っています 5 。彼女たちは幼い頃から大人に囲まれて育った影響で、同世代のヤングセレブより大人の女性のスタイルに共感を抱いており、それがブランドの客層にも反映されました 5 。顧客層の拡大とミレニアル世代:2010年代になると、The Rowは評価の高まりとともにミレニアル世代の富裕層にも浸透していきます。
特にフィービー・ファイロが手掛けたCéline(2008-2018)を愛好した層が、彼女の退任後に代替としてThe Rowを選ぶケースが増えました 5, 10 。この層は30~40代のキャリア女性やクリエイティブ職の女性が中心で、ファッションの目利きでもあります。彼女たちは派手なロゴより品質を重んじ、「一目でブランドがわからないところがかえって良い」という感覚でThe Rowを受け入れました。
実際、2010年代後半のニューヨークやロンドンでは、ファッションエディターやバイヤーといった業界人がThe Rowのコートやバッグを愛用している姿が多く目撃されました。彼女たちはブランド名を敢えてひけらかさないステルス・ウェルス(こっそり富を示す)なスタイルを好み、それがThe Rowの洗練にマッチしたのです 5 。また、オルセン姉妹と同年代(現在30代後半)の顧客も徐々に増えました。
創業時ティーンだった彼女たちの同世代が社会で成功し購買力をつけるにつれ、青春時代から憧れていたオルセン姉妹のブランドに手を伸ばしたとも言えます。当初The Rowは年上向けと思われていましたが、2010年代半ばには30代のキャリア女性もコンサバな通勤服代わりに着用するようになり、その世代横断的な人気が定着しました。
NYのソーホー地区や東京の南青山などおしゃれな街角で、20代後半~30代の女性がThe Rowのオーバーサイズコートにスニーカーソーホー地区や東京・南青山などおしゃれな街角で、20代後半~30代の女性がThe Rowのオーバーサイズコートにスニーカーを合わせている光景も珍しくなくなりました。こうした若年層の支持は、「The Row=ファッション感度の高い人が選ぶ通好みブランド」というイメージを定着させました。
Z世代(1990年代後半以降生まれ)への浸透:さらに近年では、Z世代からも静かな人気が生まれています。ただし彼らは新品を次々買えるほどの購買力はないため、主に中古市場でThe Rowにアクセスしています 6 。英国Vogueによれば、Z世代の静かなラグジュアリー志向が高まり、中古取引サイト「The RealReal」ではGen ZによるThe RowやLoro Piana等の検索・購入が大幅に増加したといいます 6 。
2023年の調査で、Z世代によるThe Rowの検索数は前年より29%増加し、Gen Zの平均注文額も18%上昇しました 6 。この背景には、「良いものを少しだけ買う」というミニマル消費思考が若者にも広がっていること 6 、そして同ブランドの中古品なら新品より手頃に入手できることがあります。例えば、定価数十万円のニットが中古で半額以下になれば、Z世代でも頑張って購入するケースが出てきています。
さらにソーシャルメディア上で、Z世代のファッション愛好家がThe Rowの古着コーデを披露するなど、憧れブランドとしての存在感も増しています。もっとも、The Rowの主要顧客は今なお富裕層が中心である点は変わりません 5 。同世代の他ブランドと比べても価格設定が突出して高いため、コア顧客は欧米・中東・東アジアの上位富裕層女性および男性です。ただ、その年齢レンジは20代後半から70代以上まで非常に広範です。
例えば高級百貨店のパーソナルショッパーによれば、母娘二世代でThe Rowを愛用するケースも見られ、娘(30代)が母(60代)にブランドを教えたり、その逆もあるとのことです。これは、同ブランドのデザインが世代を超えたタイムレスさを持つことの証左でしょう。また男性顧客についても触れると、2018年以降メンズコレクションの充実で著名ミュージシャンや俳優など男性セレブもThe Rowを着用するようになりました 10 。
映画監督のマット・リーヴスやラッパーのカニエ・ウェスト(現イェ)などがThe Rowのコートを着ているのが目撃されています。男性の場合、女性ほど大々的には語られませんが、Quiet Luxury志向のビジネスマンがスーツやニットを密かに愛用するケースも増えてきました。このように、The Rowの顧客層は当初の狭いターゲットから着実に裾野を広げています。ただし一貫しているのは、「経済的に余裕があり、ファッションに対して自分なりの哲学を持つ人」である点です 5 。
流行やブランドロゴに頼らず内面の価値を求める顧客こそが、時代を超えてThe Rowに魅了されているのです 。今後もGen Zを含む若年富裕層が成長するにつれ、新たな顧客として取り込む余地が大きく、ブランドの将来的な発展につながるでしょう。
メディア露出、賞歴、著名人の着用事例とその影響力
メディア露出The Rowは創業以来メディア露出を意図的に抑えてきましたが、業界内での評価が高まるにつれ著名ファッション誌や新聞で好意的に取り上げられる機会が増えました。特に顕著なのは権威ある媒体での高評価です。2012年のCFDA受賞時にはNYタイムズなど主要紙が「オルセン姉妹、ファッション界で快挙」と報じ 10 、以降WSJやFTといった経済紙でもビジネス面からブランドを分析する記事が掲載されています 5 。
2023年のフィナンシャル・タイムズ独占インタビュー 5 はその最たる例で、異例の長文記事でThe Rowの成功を「stealthy (ひっそりとした)」と表現しました 5 。またファッション専門メディアWWDは早くから姉妹に注目し、2015年には「The Row: The Quiet Ones(静かなる者たち)」と題した詳細な特集を発表 2 。
これは6ページにわたる特集で、ブランドの軌跡と当時の年商(推定5000万ドル 2 )や徹底した完璧主義ぶりを報じています。こうした質の高い記事群により、The Rowは信頼できる本物のラグジュアリーブランドとして一般読者にも浸透していきました 2, 5 。
賞歴The Row(およびデザイナーであるオルセン姉妹)は多くの賞を受賞しています。主なものを年代順に挙げると、2012年CFDAファッション賞「ウィメンズウェア・デザイナー・オブ・ザ・イヤー」(女性服部門最優秀賞)受賞 10 、同年WSJマガジン Innovator Awards「ファッション部門」受賞 10 、2014年CFDA「アクセサリー・デザイナー・オブ・ザ・イヤー」受賞 10 、2015年CFDA「ウィメンズウェア・デザイナー・オブ・ザ・イヤー」再受賞 10 があります。
CFDA(米国ファッションデザイナー協会)の主要部門をこれほど短期間で複数回受賞したのは異例で、アメリカにおける評価の高さを示しています。さらに2018年・2019年にもCFDA賞にノミネートされており 10 、常連の地位を築きました。その他、2018年の英国ファッション協会(BFA)の授賞式ではインターナショナル・デザイナー候補に挙がるなど、欧州でも評価されています。
2022年にはWSJ誌が選ぶ「ベスト・デザイナー賞」にも輝き、こうした賞歴はブランドの信頼性を担保する役割を果たしています。著名人の着用事例:The Rowはロゴを前面に出さない服が多いため、セレブが着用していても一見それと気づかれにくいですが、実際には多くのハリウッド女優やセレブリティたちが同ブランドを愛用しています。
例えば女優のズーイー・クラヴィッツはプライベートでThe Rowのロングコートやブーツを頻繁に着用し、ファッションメディアにも「大のThe Rowファン」と紹介されています 7, 10 。同じく女優のシエナ・ミラーやマーゴット・ロビーも、上品な日常着としてThe Rowのニットやドレスを着ている姿が撮影されています 7 。
モデルのロージー・ハンティントン=ホワイトリーはThe Rowのレザーバッグとレギンスのコレクションを愛用し、自身のSNSでも度々スタイリングを披露しています 7 。さらにモデルのヘイリー・ビーバーや女優のメアリー=ケイトの妹エリザベス・オルセンなど若手セレブも、パパラッチ写真でThe Rowのコートやバッグを身につけていることがあります 7 。王侯貴族の中にもファンがいます。
イギリス王室のメーガン妃(メーガン・マークル)は、公務や私的旅行でThe Rowのタートルネックやパンツを着用し話題になりました 7, 10 。特に2021年のNY訪問時にはThe Rowのカシミヤコートを纏い、「控えめな中に品格を感じさせる装い」と報じられています 10 。またヨルダンやカタールなど中東王室の女性もThe Rowの顧客であると言われ、オーダーメイド同然のケープやガウンコートを特注する例もあるようです。著名人の着用による影響力は計り知れません。
例えば前述のマルゴー(Margaux)バッグは、女優のジェニファー・ローレンスが私生活で使用している写真が出回ったことでさらに人気に火が付きました 7, 10 。ファッションメディアはそれを「セレブ達が愛用するItバッグ」として取り上げ、結果としてブランド認知度を押し上げました。またメーガン妃の一件では、彼女が着たセーターがネット上で話題になり、その在庫が一時品薄になったとの報道もあります 10 。
もっともThe Rowの場合、大衆への派手な波及というより、「さすが審美眼のある人はThe Rowを選ぶのだ」という印象付けに寄与している点が特徴です 7 。つまり、著名人が着用することでブランドが格上げされるというより、著名人の側がその人の品格を示すためにThe Rowを選んでいると解釈されるのです。
実際、Vogue UKは「多くのセレブたちがオン・オフ両方でThe Rowを選ぶ。それはシンプルさを極めた同ブランドが、彼らの魅力を引き立てると知っているからだ」と評しています 7 。このように、The Rowは広告に有名人を起用しなくとも、自然発生的にセレブリティが愛用し発信してくれるブランドとなっています。その影響力は単なる一過性の流行ではなく、「本物志向のスタイルアイコンたちのお墨付きブランド」という形で長期的なブランド価値の向上に寄与しています 7 。
これら著名人の支持は、若いファン層にも「将来成功したら着たい憧れ」として刷り込まれていくため、The Rowの将来的な顧客基盤拡大にもつながるでしょう。
世界の直営店・旗艦店、主な販路(Bergdorf Goodman、Net-a-Porterなど含む)
現在、The Rowは世界に5つの直営店(旗艦店)を展開しています 9 。それぞれの店舗はブランドの美学を体現する独自の空間となっており、単なる販売の場を超えた役割を果たしています。
- ロサンゼルス店(LA旗艦店) – 2014年4月オープン 9 。西ハリウッドのメルローズ・プレイスに位置し、外観は木々に囲まれ看板も控えめな隠れ家のような一軒家です。内部はミッドセンチュリーのヴィンテージ家具や現代アートが配され、まるで上質なプライベートサロンの趣き。 このLA店は2016年、シカゴ・アテナイオン建築デザイン賞を受賞しており、空間設計の美しさが認められています 9 。広々とした庭を有し、予約制でゆったりと買い物ができる環境は、ハリウッドのセレブたちにも好評です。
- ニューヨーク店(NY旗艦店) – 2016年5月オープン 9 。マンハッタンのアッパーイーストサイド、イースト71丁目にあるタウンハウス(元は1930年代築の邸宅)を改装した店舗です。住所は17 East 71st Streetで、メトロポリタン美術館にも近い高級住宅街に位置します 9 。エントランスは控えめですが中は吹き抜けがあり、採光と調度品の配置が計算され尽くした優美な空間です。LA店同様、家具や内装の一部は有名建築家デヴィッド・モンタルバらが手掛け、ブランドのミニマルな美学に沿うようデザインされています。NY店は3フロア構成でウィメンズ・メンズ両方の商品を扱い、2016年秋のグランドオープニングには多くのファッション関係者が訪れ注目を集めました 10 。
- ロンドン店 – 2019年7月オープン 9 。ロンドン随一の高級地区メイフェアのCarlos Place 15番地に位置します 9 。ストリート全体がエレガントな雰囲気を湛える通りに面し、周囲にはマークス・クラブや競合ブランドの旗艦店も立ち並びます。ロンドン店はThe Row初の米国外店舗であり、メンズ・ウィメンズのフルコレクションに加え、ジュエリーや限定家具も展示されています 9 。内装はパリの建築家ジャック・グランジュのチームが担当し、洗練されたベージュトーンで統一された空間にアート作品が点在します。英国メディアもこの店を「静かで控えめな店構えだが、中は確かな趣味の良さが薫る」と評し、欧州の顧客にとってのブランド体験の拠点となりました 10 。
- パリ店 – 2024年5月オープン 9 。所在地は1区サントノレ地区のMont Thabor通り1番地で、ルーヴル美術館やヴァンドーム広場にも近いエリアです 9 。パリ店はThe Row初のフランス直営店として注目されました。ショップデザインは自然素材と間接照明を活かした温もりある空間で、アイテム自体はほとんど陳列が見えないほどミニマルで芸術的な配置になっています 9 。インテリアにはラフィア(椰子繊維)の壁材や無垢材の什器、石材の床などを用い、パリの格式にThe Row流のカリフォルニア的寛ぎを融合させています 9 。ブランドから詳細な広報は出されていませんが、公式Instagramで2枚の写真と住所のみが発信されただけでもファンの間で話題沸騰となりました 9 。
- アマガンセット店 – 2022年夏オープン(当初は夏季限定のローカルストア、好評につき継続) 9 。
ニューヨーク州ロングアイランド東部の高級避暑地アマガンセットのメインストリート216番地に位置します 。比較的小さなスペースですが、地元の富裕層や週末に訪れる顧客のために、リゾートウェアやホームグッズを中心としたセレクションを揃えています。ハンプトンズらしいリラックスした雰囲気の店舗で、2023年以降も夏季シーズンに営業しています。直営店はいずれも単独の世界観を演出するフラッグシップであり、各都市の富裕層顧客のコミュニティ形成にも一役買っています。
今後出店が予想される地域としては、アジア(特に中国・日本)や中東(ドバイなど)が挙げられます。例えば2023年、中国・北京SKPに期間限定ポップアップを開いたことは、将来的な常設店への布石とも見られています。また日本でも、すでにセレクトショップ経由での販売はありますが、表参道エリアなどに将来直営店ができる可能性もゼロではありません。主な販路(ホールセール/卸販売):The Rowの商品は、世界の一流小売店を通じても販売されています。
米国では先述のBergdorf Goodman(バーグドルフ・グッドマン)がNYの主要取扱店であり、高級デパートNeiman Marcus(ニーマン・マーカス)も一部店舗で取り扱います 2, 10 。またロンドンではSelfridges(セルフリッジズ)やHarrods(ハロッズ)がThe Rowを展開し、パリではLe Bon Marché(ボン・マルシェ百貨店)が有名です 10 。
ミラノや香港などでも、富裕層向けブティックであるAntoniaやJoyceが取り扱った実績があります。卸販売先は限定的とはいえ、世界の主要富裕層マーケットはほぼ網羅しており、2015年時点では年間160以上の小売店が同ブランドを扱っていました 2 。オンライン販路:デジタルでは、Net-a-Porterが黎明期からの重要な販路でした 10 。
Net-a-Porterは顧客に対するブランド解説記事や姉妹のインタビュー(2008年頃、アシュレーが初めて同サイトでブランドについて語った)を掲載するなど販促に協力的で、EC売上の礎となりました。またMyTheresaやMatchesFashion、Ssenseといった大手ラグジュアリーECもThe Rowを扱っています 10 。これらオンラインリテーラーは世界配送が可能なため、直営店のない地域の顧客でも商品を入手できます。
中には「メーガン妃お気に入りのThe RowがNet-a-Porter等でセール中」と伝えるような情報も流通していますが 7 、ブランド側は価値維持のためセールやアウトレットでの販売を極力制限しており、こうした値引き販売はシーズン終了後の一部商品に留まります。販路の戦略的特徴:The Rowは卸売と直販のミックス戦略を採りつつも、前述の通りチャネルは厳選しています 5 。
そのため、消費者から見ると「入手できる場所が限られているブランド」という印象があり、それがまた希少価値を高めています 5 。例えば地方都市の百貨店には展開せず、主要都市の旗艦店か上記のようなトップ小売店に行かなければ現物が見られない状況です。近年はブランド公式サイトで全世界から直接購入できるとはいえ、高額商品のため現物確認を望む声も多く、そうした顧客は旅行の際に直営店を訪れたりパーソナルショッパーを利用するようです。
このように、販路を通じて顧客体験そのものをラグジュアリーに演出している点もThe Rowの特徴です 5 。一流店で丁寧に扱われ、簡単には誰の手にも渡らない。そうした流通戦略がブランドのステータス維持に直結しています。
同業他社との比較分析(例:Loro Piana、Céline時代のPhoebe Philoなど)
The Rowは、そのミニマルラグジュアリーという特性から、特にLoro Piana(ロロ・ピアーナ)やPhoebe Philo(フィービー・ファイロ)が手掛けていた時代のCéline(セリーヌ)としばしば比較されます 5, 10 。これらのブランドとThe Rowをいくつかの側面から比較してみましょう。まず、Loro Pianaとの比較です。
1924年創業のイタリアブランドであるLoro Pianaは、元々最高級素材メーカーであり、カシミヤやヴィキューナといった素材そのものの質を前面に出したタイムレスなエレガンスを追求しています 10 。一方、2006年創業のThe Rowは、オルセン姉妹というデザイナーのビジョンに基づき、素材の良さに加えて現代的なミニマリズムと完璧な仕立てを融合させています 3, 5, 9 。
両ブランドともにロゴをほとんど用いず、「静かな贅沢」を体現する点で共通しており、価格帯も世界最高級クラスです 2, 10 。しかし、Loro Pianaがよりクラシックで伝統的なスタイルと機能性を重視するのに対し、The Rowはよりデザインコンシャスで、時にはジェンダーレスな要素も含む現代的なミニマルの極みを目指していると言えます 5 。
顧客層も、Loro Pianaが伝統的な富裕層や「旧金持ち」的な層を中核とする一方、The Rowはファッション感度の高い層や業界人、そしてより幅広い年齢層の富裕層に支持されています 5, 10 。展開規模やマーケティング戦略も異なり、LVMHグループ傘下(2013年以降)のLoro Pianaが世界中に多数の直営店を持ち伝統的な広告手法も用いるのに対し、独立性を保つ(2024年から一部外部資本を受け入れ)The Rowは限定的な店舗展開と極めて控えめなマーケティングを貫いています 1, 2, 5, 8, 9, 10 。
次に*Phoebe Philoがクリエイティブ・ディレクターを務めた時代のCéline(2008年~2018年)との比較です。フィービー期のCélineは、洗練されたミニマリズムとモダンな女性らしさ、実用性を融合させ、当時のファッション界に絶大な影響を与えました 10 。ロゴを控えめにし、個人のスタイルを尊重する哲学はThe Rowと通じるものがあり、実際にフィービーの退任後、彼女の熱心なファン(フィロファイル)の多くがThe Rowへと流れたと言われています 5, 10 。
両ブランドとも、ファッション感度の高い女性富裕層から「毎日着たい」と思わせるリアルクローズとして支持されました。相違点としては、デザインのニュアンスが挙げられます。The Rowがよりストイックで削ぎ落とされ、時にアメリカ的な中立さやジェンダーレスな雰囲気を持つのに対し、フィービー期のCélineはミニマルながらもアシンメトリーなカッティングや大胆な色使い、フェミニンなディテールなど、パリのメゾンらしいアーティスティックなひねりが見られました 10 。
また、所属グループも異なり、CélineはLVMH傘下でしたが、The Rowは長らく完全な独立経営を維持してきました(現在は少数株主を受け入れ) 1, 8, 10 。これらのブランド以外にも、同じくQuiet Luxuryの文脈で語られるBrunello Cucinelli(ブルネロ・クチネリ)や、ミニマリズムを追求するJil Sander(ジル・サンダー)、近年注目されるKhaite(カイト)、同じセレブリティ発ブランドのVictoria Beckham(ヴィクトリア・ベッカム)などが比較対象となりえます。
しかし、それぞれスタイルや価格帯、ブランドのポジショニングにおいてThe Rowとは異なる特徴を持っており、The Rowが築いている独自の立ち位置は際立っています 5 。特に2023年にPhoebe Philo自身が新ブランドを立ち上げたことで、今後The Rowとの競合関係が注目されています 5 。
「The Rowはすでに“アメリカのエルメス”とも評される域にあるが、フィービーの新ブランドが目指すであろう方向性との競争が次なる挑戦になるかもしれない」との見方もあります 5 。最終的に、The Rowの強みは、創業者の確固たる美学と(一部資本を受け入れつつも維持されるであろう)独立性に支えられ、素材、デザイン、マーケティングの全てにおいて一貫した哲学を貫いている点にあります 5 。
これにより、「The Rowにしか出せない」独特の雰囲気と品質が生まれ、他のブランドとは一線を画す、代替不可能なラグジュアリーブランドとしての地位を確立しつつあると言えるでしょう 5 。
近年の売上、成長戦略、リスク・課題と将来的展望
近年の売上The Rowは非上場企業のため正確な財務データは公表されていませんが、業界紙の推計によれば年商は2021年時点で1億ドル規模に達していたようです 10 。2015年頃の推定5000万ドルから、ほぼ倍増した計算になります 2 。その後、Quiet Luxuryブームの追い風もあり2022~2023年にさらなる売上成長があったと見られます。
2024年の資本参加時に評価額が10億ドルと報じられたことから逆算すると、年商は2~3億ドル程度に上る可能性があります(一般にラグジュアリーブランドの企業価値は年商の3~5倍程度とされるため) 1 。もっとも、この数字はあくまで推測であり、実際にはそれより少ない可能性もあります。いずれにせよ、オルセン姉妹がファッションブランドを興し十数年でここまでの売上規模に育てたことは特筆に値します。
これは、同時期に始まった他のセレブブランド(例えばJessica Simpsonブランドなどより遥かに高価格帯)の中では突出した成功です。また2020年のコロナ禍では一時苦境に陥ったものの、翌年には見事に回復しており、ブランドの底力が示されました 10 。
成長戦略The Rowの成長戦略は、これまで漸進的かつ慎重でした 5 。具体的には、新カテゴリー追加や新店舗オープンといった拡大策を少しずつ実行し、その都度クオリティを確保してから次に進む手法です。2010年代前半はウィメンズのフルライン確立に注力し、2010年代後半からメンズ展開に着手、さらに2020年代にホームやキッズなど周辺領域を試験的に展開しました 10 。一度に多くを広げず、確実に成功させてから次へ進むという段階的成長です。
また地理的拡大も、まず北米、次に欧州と順を追って進めました。2024年にパリ店を出したことから、次はアジア太平洋市場が視野に入っているでしょう 1 。中国はラグジュアリー市場として無視できず、すでに顧客は存在しますが、直営店を開設すれば更なる売上押上げが期待できます。ただし中国では知名度が欧米ほど高くないため、旗艦店を出しブランド教育を行う必要があるでしょう。同様に日本や中東も未出店で伸び代があります。
今回資本参加した投資家には中東とも関係の深い人物がいるため、中東富裕層へのマーケティング強化も見込まれます 1 。商品戦略では、アクセサリーとメンズが今後の成長ドライバーになると考えられます。ラグジュアリーブランドにおいて収益性が高いのはバッグ・シューズ等のアクセサリーですが、The Rowは長年RTW(ウェア)中心でした。
2019年頃からMargauxバッグのヒットでアクセ部門が伸長し、現在では複数のバッグライン(Margaux、N/S Park Tote、Half Moonなど)を持つまでになりました 10 。引き続き新作バッグやシューズに力を入れ、エルメスやセリーヌのようにアイコンバッグが売上の柱となる体制を築ければ、更なる収益アップが見込まれます。
またメンズウェアは市場規模が大きく、特にアジアでは富裕男性が増えているため、The Rowのミニマルメンズが世界的に受け入れられれば売上が飛躍する可能性があります。2018年の正式ローンチ以降、メンズ部門は順調に拡大しており、すでに総売上の20%近くを占めるとの推計もあります。今後はメンズのバッグ・シューズ開発も進め、ユニセックスでブランドトータルコーディネートが完結するラインナップが充実するでしょう。
リスク・課題もっとも、The Rowの今後にはいくつかのリスク要因も存在します。第一に指摘されるのは、人気拡大による希少性の低下リスクです。Quiet Luxuryブームで知名度が上がったことは諸刃の剣で、あまり一般化しすぎるとこれまでの「知る人ぞ知る」的な魅力が薄れかねません 10 。例えば2023年にはSNS上でMargauxバッグの話題がバズり、模倣品が出回る動きもありました。
BoFの分析では「メインストリームのインフルエンサーがMargauxを持ち歩くようになると、その魅力は損なわれるだろう」という声も紹介されています 10 。このためブランド側はショーでの写真禁止など一層のクローズド戦略を取ったわけですが、人気が続く限りコントロールは難しくなる可能性があります。第二に、競合の台頭です。
特にフィービー・ファイロ新ブランドの始動は前述の通り最大の注目ポイントで、彼女のブランドがQuiet Luxuryマーケットを席巻するとThe Rowのシェアが食われる恐れもあります 5 。ただし市場全体が拡大すれば共存も可能であり、The Rowにとっては「本家」を超える存在になるというさらなる高みへの刺激とも言えるでしょう。
また他の競合としては、LVMHグループのセリーヌ現行デザイナー(エディ・スリマン)が再びロゴブームからミニマル路線に振る可能性や、新興ブランド(例えば既述のKhaiteや、Gabriela Hearstなどのデザイナー系ブランド)がQuiet Luxury文脈で成長する可能性があります。The Rowは独立系ゆえ、巨大グループの潤沢なマーケ資源に対抗する必要も出てくるでしょう。第三のリスクは、価格の高さによる景気影響です。
超富裕層は景気に左右されにくいとはいえ、グローバル不況が長引けば高額ファッション支出を見直す富裕層も出てきます。また中国など新興市場では、The Rowほど高額なノーロゴ商品が受け入れられるか不透明です。ブランドロイヤリティがまだ浅い地域では、同価格帯ならエルメスやシャネルを選ぶ顧客も多いでしょう。このため、新市場開拓にはブランド教育と適切なローカライズ戦略が課題となります。
例えば、日本人富裕層にはサイズや色展開の調整が必要かもしれません(日本向けに小さめサイズを用意する等)。中国ではデジタルプロモーションを強化し認知度向上を図る必要があるでしょう。しかしこれらは、静かなマーケティングを旨とするThe Rowにとってバランスが難しいテーマとなります。第四に、創業者リスクです。オルセン姉妹はまだ30代後半と若いとはいえ、今後ライフステージの変化やキャリア上の選択でブランドから距離を置く可能性も皆無ではありません。
特に彼女たちは元々表舞台から退いて静かに暮らすことも厭わない性格と言われ、将来デザイナー一線から退いた場合にブランド価値が維持できるか懸念があります。もっとも2024年の出資受け入れにより、彼女たちが仮に退いてもブランドを継続・成長させるプロフェッショナルな体制が整いつつあるとも考えられます(エルメス家が自社を超えて投資したことからも、その意図が伺えます) 1 。
将来的展望以上のリスクを踏まえつつも、The Rowの将来には明るい展望が広がっています。まず、「静かなラグジュアリー」の潮流は一過性ではなく定着するとの見方があります 5, 6 。富裕層消費者の間で、ロゴや過剰なトレンドに頼らないスタイル志向が根強く残る限り、The Rowの価値観は支持され続けるでしょう。またサステナビリティや長く使えるファッションへの関心が高まる社会においても、品質本位の同ブランドは時代に合致しています。
むしろファストファッションの反動として、今後さらに小規模でも良質なブランドに注目が集まる可能性もあり、その象徴的存在としてThe Rowはポスト・ラグジュアリー時代のリーダーになり得ます。資本提携により得たリソースで、The Rowはこれからグローバルブランディングを加速させるでしょう 1 。具体的には各国旗艦店の展開、コレクションラインの拡充、デジタルの活用強化などが考えられます。
ただし既存顧客を失望させるような急激なマス路線には進まないはずで、あくまで「控えめな成長」を維持すると予想されます 5 。オルセン姉妹もFTインタビューで「もっと良いものを作り続ける、それだけよ」と述べており 5 、収益よりプロダクト優先の姿勢は揺らいでいません。投資家側も短期利益ではなく長期価値を重視するスタンス(シャネル家などは長期視点が伝統)と見られるため、クリエイティビティが損なわれる懸念も小さいでしょう 1 。
今後の展開として期待されるのは、The Rowのライフスタイルブランド化です。既にホームグッズや香り(オイル)を扱い始めましたが 10 、これをさらに広げてインテリアやフレグランスラインを本格展開する可能性があります。例えばカシミヤブランケットやホームウェアは富裕層に好評で、いずれ「The Row Home」のような形で独立ラインになるかもしれません。また、コラボレーションにも引き続き注目です。
過去にはOliver Peoplesやノグチ美術館との協業がありましたが 10 、今後も芸術・文化分野とのコラボでブランド価値を高める戦略が考えられます。例えば現代美術作家との限定カプセルコレクションや、高級ホテルの制服デザインなど、エクスクルーシブなプロジェクトを通じてブランドの物語性を深める展望があります。総括すると、The Rowは堅実な高級路線を守りつつ徐々にスケールを拡大していくと予想されます。
その独自のポジショニングとクリエイティブの高さから、「次代のエルメス」「アメリカ発のオートクチュールハウス」といった期待すらかけられています 5 。オルセン姉妹が築いたこのブランドは、彼女たち自身の成長と歩調を合わせて成熟し、今や設立20年弱でありながらファッション史に残るケーススタディとなりつつあります 5 。ラグジュアリーブランドの定石を覆し、静かに頂点に上り詰めたThe Rowのこれからの歩みもまた、静かにしかし大いに注目されることでしょう。
参考文献
- 1Carbone SS. The Row’s $1 Billion Deal, Explained. Business of Fashion. 2024 Sep 13 [cited 2025 May 5]. Available from: [URLを挿入]
- 2Iredale J. The Row: The Quiet Ones. Women’s Wear Daily. 2015 Apr 29 [cited 2025 May 5]. Available from: [URLを挿入]
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- 4Jackson H. Is The Row’s No Social Media Policy the Ultimate Act of Quiet Luxury? Vogue (US). 2024 Feb 28 [cited 2025 May 5]. Available from: [URLを挿入]
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- 9The Row. About Us / Stores. The Row Official Website. [Updated 2025; cited 2025 May 5]. Available from: [URLを挿入]
- 10Wikipedia contributors. The Row (fashion label). Wikipedia, The Free Encyclopedia. [Date of last revision unknown; cited 2025 May 5]. Available from: [URLを挿入]









