運動Vol. 066分で読む

Zone2、ミトコンドリアという地下工場。

息は弾むが、会話はできる。心肺の底力はここで建つ。

The underground factory.
MOVEMENT — ZONE 2, THE UNDERGROUND FACTORY

Zone2、
ミトコンドリアという地下工場。

強度を上げれば速くなる、というのは半分の真実。Zone 2は地味で長くて、その代わりに地下深くに、新しい工場を建てる。

夜明けの長い影、それだけが走っている。Plate II

Zone 2 という、燃料の選び方

息は静かに弾み、会話はできる。その帯で脂肪が燃える。

Zone 2は、心拍数で最大の60〜70%、血中乳酸が2 mMを超えない強度帯。会話はできるが、息は静かに弾む。San-Millán & Brooks の論文は、ここでの脂質酸化率がミトコンドリアの「代謝柔軟性」をもっとも素直に映すと示した。世界トップの持久系アスリートは、同じ速度でより多くを脂肪から燃やしている。

擦り切れたハンドルテープ、年月の痕。Plate III

ミトコンドリアという地下工場

穏やかに長く走るほど、見えない改装工事が進む。

Zone 2を続けると、ミトコンドリアの数と質が上がる。MacInnis & Gibala のレビューが整理したように、低強度長時間でもミトコンドリア新生のシグナルは確かに立ち上がる。持続運動にもインターバル運動にも適応がみられる。どの方法が最良かは、強度・量・対象によって変わる。

60–70% HRmax
Zone 2 の心拍帯
霧のかかった道、まだ誰もいない。Plate IV

週の80%は、ここで

世界レベルの選手も、週の大半を低強度で過ごす。

ノルウェーのスポーツ科学者 Stephen Seiler は、世界レベルの持久系選手のトレーニング配分を解析し、「80/20ルール」を提唱した。週のセッションの約80%は乳酸2 mM以下の低強度、残り20%が閾値以上の高強度。地下工場を建てる時間が、その80%にあたる。

80 / 20
低強度 / 高強度のセッション配分
回るペダルと、無音のチェーン。Plates VI–VII
MEMOIR — Running, as a foundation2007
村上春樹『走ることについて語るときに僕の語ること』 · Haruki Murakami, What I Talk About When I Talk About Running
速さを競うためではなく、続けるために走る。淡々と積み重ねる時間そのものが、いつのまにか土台になっている。
Editorial paraphrase / 編集部による要約

村上はマラソンを小説の執筆になぞらえ、瞬発の才ではなく、毎日同じように積み重ねる持久のほうを書いた。Zone 2の80%も同じ性格を持つ。速さではなく、地味な反復が、見えない底力を建てていく。

VILPA との関係

前号のVILPA(1日4分の本気)は、運動のない日々への最低限の割り込み。Zone 2は、走り込める時間がある日のための長い土台。VILPA研究は短い活動と死亡リスクの関連を調べたもので、VO₂maxの改善試験ではない。Tabata研究の運動介入とは、対象も測った結果も異なる。

ボトルに残った水、走り終えた静けさ。Plate VIII
CODA:編集後記

速くなりたくて強度を上げていた手を、いったん止める。Zone 2は地味で長い。けれどその80%の時間が、地下深くに新しい工場を建てている。4分のVILPAと、長い土台のZone 2。対象と測った結果が異なる研究を、同じ効果として扱うことはできない。

編集部

WordsAMPL Editorial

EditorKen Okamoto, MD