Zone2、
ミトコンドリアという地下工場。
強度を上げれば速くなる、というのは半分の真実。Zone 2は地味で長くて、その代わりに地下深くに、新しい工場を建てる。
Zone 2は、心拍数で最大の60〜70%、血中乳酸が2 mMを超えない強度帯。会話はできるが、息は静かに弾む。San-Millán & Brooks の論文は、ここでの脂質酸化率がミトコンドリアの「代謝柔軟性」をもっとも素直に映すと示した。世界トップの持久系アスリートは、同じ速度でより多くを脂肪から燃やしている。
Zone 2を続けると、ミトコンドリアの数と質が上がる。MacInnis & Gibala のレビューが整理したように、低強度長時間でもミトコンドリア新生のシグナルは確かに立ち上がる。長く穏やかに走ることは、見えないところで一番大きな改装工事をしている。
ノルウェーのスポーツ科学者 Stephen Seiler は、世界レベルの持久系選手のトレーニング配分を解析し、「80/20ルール」を提唱した。週のセッションの約80%は乳酸2 mM以下の低強度、残り20%が閾値以上の高強度。地下工場を建てる時間が、その80%にあたる。
速さを競うためではなく、続けるために走る。淡々と積み重ねる時間そのものが、いつのまにか土台になっている。— Editorial paraphrase / 編集部による要約
村上はマラソンを小説の執筆になぞらえ、瞬発の才ではなく、毎日同じように積み重ねる持久のほうを書いた。Zone 2の80%も同じ性格を持つ。速さではなく、地味な反復が、見えない底力を建てていく。
前号のVILPA(1日4分の本気)は、運動のない日々への最低限の割り込み。Zone 2は、走り込める時間がある日のための長い土台。両方が、別の経路でVO₂maxを押し上げる。Tabata 1996 は対照として、超高強度20秒×8本でも同様の効果を示した。
速くなりたくて強度を上げていた手を、いったん止める。Zone 2は地味で長い。けれどその80%の時間が、地下深くに新しい工場を建てている。4分のVILPAと、長い土台のZone 2。別々の道から、同じ底力へ向かっていく。