コーヒー、
午後2時という境。
コーヒーが眠りに効くか効かないか、というより、効く時間を読み違えている。半減期5時間という事実が、午後2時という境を引く。
Drake 2013 J Clin Sleep Med の RCT は、就寝0/3/6時間前にカフェイン400mgを投与し、客観的に睡眠時間を計測した。6時間前でも総睡眠時間が約1時間以上減少。被験者本人はそれをほとんど自覚していない。「夜は普通に眠れている」と感じても、実際には削られている。
カフェインの半減期は健康成人で約5時間。午後2時の一杯(100mg)は、午後7時に50mg、深夜0時にもまだ25mg残る。Clark & Landolt 2017 のSRが整理した通り、入眠潜時の延長・徐波睡眠の減少が、自覚されないまま積み上がる。
コーヒーは知性を駆け立てる。だがその代償として、人は自らの生命の蓄えを少しずつ前借りしている。— Editorial paraphrase / 編集部による要約
バルザックは20年近く、節制なくコーヒーを飲み続けた人だった。彼の『現代の興奮剤論』は、コーヒー・茶・砂糖・酒・煙草の五つを論じ、これらが知や創作を確かに後押しする一方で、生命の活力を削っていくと結ぶ。半減期5時間という現代の数字は、彼が直感していたこの取引を、ただ時計の文字盤の上で読み直しているにすぎない。
同じコーヒーで影響が出る人と出ない人がいるのは、CYP1A2 遺伝子の多型による。Cornelis 2006 JAMA は、CYP1A2 遅代謝型でコーヒー摂取量と心筋梗塞リスクの関連を示した(睡眠への直接データではないが、体内残留時間が長い遺伝背景の存在を実証)。「私はコーヒー何杯飲んでも眠れる」という申告は、半分は本当で、半分は気づいていない。
コーヒー以外にもカフェインは隠れている。緑茶(30〜50mg/杯)、ダークチョコ(25mg/100g)、エクセドリンなど一部のOTC鎮痛剤(65mg/錠)。「夜に控える」は、コーヒーだけの話ではない。
効くか効かないかではなく、いつ効くか。半減期5時間は、午後2時という静かな境を引く。夜は普通に眠れていると感じても、6時間前の一杯はもう、眠りを少し削っている。今日の最後の一杯を、その線の手前に置くこと。