不眠の第一選択は、
薬ではなかった。それが、論文の答え。
眠れないとき、最初に手に取るべきは薬ではない。それは、論文がほぼ揃って言っていること。世界の不眠治療ガイドラインは、もう CBT-I に並んでいる。
Trauer 2015 Ann Intern Med は、20件の RCT を統合し、CBT-I の効果サイズを示した。入眠潜時は約19分短縮、中途覚醒は26分減、睡眠効率は10ポイント改善。短期では薬と同等、長期では薬を超える。「治療を止めても効果が残る」のが行動療法の特徴。
Mitchell 2012 BMC Fam Pract は、CBT-I と睡眠薬を頭から比較したSR。ゾルピデム・ゾピクロンと短期で同等以上、テマゼパム・トリアゾラムに対しては6〜24か月の長期で優位。薬は飲んでいるあいだ効くが、止めれば消える。CBT-I は、行動の習慣そのものを書き換える。
欧州睡眠研究学会(ESRS)の Riemann 2017 ガイドラインは、慢性不眠症成人の第一選択として CBT-I を「強い推奨・高エビデンス」グレードに置いた。米睡眠医学会(AASM)も同じ立場。Edinger & Means 2005 が示した「治療の選択肢から第一選択へ」の格上げが、20年で世界標準になった。
Sleep that knits up the ravell'd sleave of care, / The death of each day's life, sore labour's bath, / Balm of hurt minds, great nature's second course, / Chief nourisher in life's feast.
マクベスは眠りを殺したあと、眠りそのものを讃える。ほつれた心をふたたび編み直すもの、傷ついた心の癒し、と。薬で意識を落とすことと、この「編み直す眠り」は別物だ。CBT-I が目指すのも、身体がもともと持っていた眠りを取り戻すこと。化学で落とすのではなく、行動で戻す。止めても残るのは、戻したものが自分のものだからだ。
刺激制御(SC:眠れない時はベッドを離れる)・睡眠制限(SR:床上時間を実睡眠時間に近づける)・認知再構成(CR:不眠への破局的思考を整える)・睡眠衛生(SH:環境とリズム)。デジタルCBT-Iアプリも対面と同等の効果を示し、アクセスの壁が下がっている。
眠れない夜、最初に手が伸びるのは薬瓶のほうだった。けれど論文は、刺激制御も睡眠制限も認知再構成も、飲むのではなく続けるものだと言う。薬は飲むあいだだけ効き、行動は止めても残る。今夜から書き換えるのは、処方ではなく、習慣のほう。